夜長は秋の季語だ。短い夏の夜の後だけに秋の涼しい夜は長く感じる。
正岡子規に 長き夜や 孔明死する三国志 という俳句がある。写生俳句の正岡子規にしては蕪村のように故事を踏まえた面白い句だ。中国の長編小説「三国志」で諸葛孔明の死ぬというクライマックスまで読み進むということで夜の長さをあらわしている。
この俳句は土井晩翠の星落五丈原という歌を思い出させる。
祁山悲秋の風更けて 陣雲暗し五丈原 ・・・・・丞相病いあつかりき 丞相病いあつかりき
先帝劉備玄徳の死後、諸葛孔明は魏と雌雄を決すべく数度五丈原に出陣する。しかし魏の名将司馬仲達は孔明の鋭気を避けて守りに徹する。孫子の兵法が教える「堂々の陣はうつことなかれ」ということだ。そうする内に命をすり減らして政務と軍務に精励していた孔明はついに五丈原にて死んでしまう。
正岡子規が何時この句を詠んだのかは知らない。彼は既に己の病と寿命を知っていたのだろうか?もしそうだとするとこの句にはもっと重みがある。