食糧問題について昨日二つの記事を読んだ。一つは日経新聞に出ていた「政府が備蓄米も買い増しを検討している」という記事だ。6月末で77万トンある備蓄米を100万トンに積み増すというもので、3百億円を超える支出になる。この政策はコメ価格の下支えを狙ったものだが、専門家の間では備蓄米を積み増してもコメ価格の下落傾向に歯止めはかからないということだ。
もう一つの記事はFTが国連食糧農業機構FOA(Food and Agriculture Organization)の発表などを引用しながら世界的な食糧危機に対する警告を発している。世界的な食糧価格の上昇と日本のコメ価格の下落は一見矛盾するように見えるが、日本のコメ価格が世界の米の価格の6倍位高いことを知れば、二つのことに矛盾は感じない。穀物類は投資の世界では「普及品」という意味でコモディティの一つに分類されるが、日本のコメは特殊すぎてコモディティには入らないだろう。
さてFTの記事の概要を紹介しよう。先週「世界食糧の日」があったが、国連によると世界中で854百間人の人が栄養失調で苦境にあえいでいる。
いきなり話は赤福に飛ぶけれど私は「赤福が賞味期限をごまかして、出荷したことは悪いけれどそれ程大騒ぎすることではない。多少賞味期限が切れた位で大切な食べ物を捨てるとしたらそれは世界レベルで見ると大変な浪費でかつ富める国の奢りではないか?」と考えている。そもそも賞味期限切れの赤福を食べて腹痛を起こした人がいるのだろうか?
FTによると1970年代以降で初めて世界レベルで食糧不足が問題になってくるという。食糧価格の上昇は顕著だ。小麦とミルクの値段は史上最高値となっているし、大豆に価格は90年代の平均価格を超えた。コメとコーヒーの価格は10年振りの高値を付けた。また肉の値段は幾つかの国で5割方上昇している。
食糧価格の上昇の原因は、オーストラリアの旱魃などという一時的な要因もあるが、構造的には豊かになった中国とインドがよりタンパク質を求めていることと、バイオ燃料の影響である。FOAはこれらの構造的変化により農産物価格は向こう10年の間に過去10年に比べ20%から50%上昇すると予想している。食糧価格の上昇は貧困国に大きな影響を与える。それは貧困国ほど消費に占める食料費の割合が高いからだ。ニジェールなどサブサハラ地域では食料費は消費支出の6割を占めるが中国では3割で米国では1割だ。
食糧の輸出国はマクロ経済ベースやビジネスベースで見ると、楽であるが消費者レベルでは被害がある。イタリアはマカロニの原料であるデュラム小麦の半分を輸入に頼っているが、パスタの値段が高騰したのでデモが起きた。食糧輸出国は次第に食糧の輸出制限に動くようになっている。12月に国会選挙を向かえるロシアではプーチン大統領が食糧価格の高騰に言及し、政府は小麦、大麦の輸出に関税をかける措置を導入した。
同時に食糧輸入国は食糧の増産策と備蓄策を模索し始めた。
ところで農産物アナリストの中には今日の農産物価格の上昇は部分的には米国と欧州に責任があるというものがいる。それは米国と欧州が農産物に多額の補助金を出してきたため、それ以外の国が競争力を失い、農業への投資が低水準だったからだ。その結果世界的に食糧の需給が崩れると先進国は高い食料を輸入せざるを得ないことになる。ゴールドマンのコモディティ調査のヘッドは「米国と欧州はかっては農業デフレの輸出国だったが、今や彼らは農業インフレを輸出している」という。
話を元に戻して日本の農業政策を考えてみよう。先の参議院選挙で大敗を喫した政府は農民の機嫌を取るため、余剰のコメを買うという。だがこれがこれからかなり長い間続くことが予想される世界的な食糧不足時代に有効な手段なのだろうか?
有効な手段は日本の農業生産性を高めるような投資を行うことであり、既に世界の水準より6倍も高いコメの価格を維持することではないはずだ。円安が持続すると食糧自給率の低い日本には痛手になる。円安は一部の輸出企業に大きなメリットを与えたが、コモディティ価格が上昇すると日本経済に大きな足かせとなる。
この重要な転換期に日本の政治家は対処できるのだろうか?
日本の株価は世界の主な市場から全く取り残されているが、世界の投資家達は忍び寄るコモディティインフレが日本に与えるネガティブな影響を早くも感じているのだろうか?