先週オバマ大統領は銀行に「金融危機責任料」として、向こう10年間で900億ドルの特別税を検討していると発表した。予定では来月の国会で2011年会計年度予算案として可決され、6月から実施されることになる。
これに対する銀行業界の反応は分かれている。ファイナンシャルタイムズによると米国証券業金融市場協会Sifmaは Sidley Austin法律事務所の Carter Phillips弁護士を雇って、この「極めてターゲット的で懲罰的な課税」に対して、どのように対応するか検討を始めた。
強い対抗策は、特別課税の違法性を裁判所で争うというものだが、今のところ業界の意見は割れているとFTは報じている。
ところでFTは本件に関するモハメッド・エルエリアン氏の意見を掲載していた。エルエリアン氏は債券ファンドの大手・PIMCOの最高共同経営責任者だが、明快な意見を述べているところが興味深い(日本ではこの手の問題に投信会社の社長が見解を述べることはないだろう)。
エルエリアン氏の意見は「銀行へ課金はメリットはあるが、金融システムへの強い影響力は持たず」というものだ。
同氏は4つの論点を挙げる。
まず最初に「課金は政治的に人気がある」という点。もっとも単純なレベルの分析では「銀行の巨額なボーナスや高まる失業率に対する人々の怒り」に対する政府の反応を示すという効果がある。より深いレベルでは「金融支配型の経済は、ポスト工業社会が成熟した時の自然な状態」という欠陥のある幻想の終わりを印象付けるものだ。
第二に「銀行業界の高収益は2008年に取られた例外的な政策により大きな利益を得ている」という点。これは銀行が政府から公的資金を得た(大部分は既に返済されている)ことだけでなく、銀行の市場調達に対する政府保証、流動性を確保するための超低金利政策を含む。超低金利政策のため長短金利の差が拡大した。このため預金を受け入れている銀行は金利差で大きな利益を上げることができた。
第三に「この政策は長期的な金融業界に対する規制強化方針と整合的である」という点。
第四に「財政赤字が拡大する中で、政府に増収効果がある」という点。もっとも私見を加えると年間90億ドル(8千億円強)という額はそれ程大きいものではない。銀行業界のボーナス総額の20分の1程度だという見方もある。
エルエリアン氏はこれは完全に出来上がった取引done deal(これは俗語)なので、これについて議論するより、この現象が米国およびその他の先進国にどの程度拡大するかを見るべきだと述べる。つまり銀行業界に勝ち目ナシという判定だ。
業界選択的な課税による効率性が損なわれることや経済的なねじれの議論は起こりうるが、世論は聞く耳を持たずというところだろう。
エルエリアン氏は以上のようなことから、大手銀行に「金融危機責任料」を課すことは理解できるし、弁護し得ると述べる。しかし同氏はこの政策は本質的な問題の解決に資するところはほとんどないと述べ、先進国経済は構造的な変化に全面的に対応する必要があると述べている。
☆ ☆ ☆
資産運用で重要なことは、個別銘柄の選択ではなく、資産配分である。長期的な資産配分を決める上で重要なものは歴史観ではないか?と私は思っている。
ピムコのビル・グロス氏やエルエリアン氏は昨年夏頃「ニューノーマル」という言葉でポスト金融危機後の世界を説明し始めた。
私は彼等のニューノーマルを十分理解している訳ではないが、私なりにニューノーマルを考えると、投資面では暫くローリスク・ローリターンの世界が続くと考えている。このような時代に過度のハイ・リターンを求めることはリスクを取り過ぎることになる。
歴史観とはこのように「変えることのできない潮流」を認識し、逆らわないことだと私は考えている。