このところ内外のメディアで中国の話題を目にしない日はない。例えば「昨年の中国の自動車販売台数が米国を抜いて世界一になった」とか「昨年の中国の輸出額がドイツを抜いて世界一になった」など。また今年のどこかの時点で「中国のGDPが日本を抜いて世界第2位になった」というニュースが暫く日本のマスコミを賑わすだろう。
ポジティブなニュースとともに一方「中国のバブル崩壊リスク懸念」が漠然と高まっている。これについてエコノミスト誌はNot just another fakeという題で、現在の中国と80年代の日本を対比させながら、結論としては「中国のバブル崩壊リスク」は高くないと述べている。その結論が正しいかどうかはじっくりと検討するとして、客観的でデータに立脚した議論は傾聴に値する。
エコノミスト誌は中国に対する悲観論は3つの大きな論点があるという。それは「過大評価された資産価格」「過大投資」「過剰な銀行融資」である。
【中国の資産は過大評価されているのか】
エコノミスト誌は80年代の日本に較べると中国の株価はほとんど過大評価されていないと述べる。80年代の日本のPERは約70。これに較べて現在の上海A株のPERは28、これは長期的なPER平均38より低い。昨年中国株は80%上昇したが、ブラジル、インド、ロシアの株は平均120%(ドルベース)上昇している。一方中国企業の利益はどこよりも早く回復し、9-11月の利益は昨年比7割アップしている。
中国の不動産市場は過熱している。北京や上海の新築アパートの価格は昨年5-60%上昇した。しかし全国ベースで見た平均的な住宅価格はバブルと呼ぶべき状態ではない。バブルか否かを見る一番の物差は平均的は住宅価格と平均的な年収の比率である。大部分の先進国では住宅価格は年収の4,5倍であるが、中国では10倍弱だ。だがUBSのエコノミストは「中国の住宅購入者の大きな部分は人口の2,3割を占める最も裕福な都市部住民なので、この層の平均で見ると年収比率は先進国並みになる」と主張している。一方日本では90年代には住宅価格は年収の18倍にもなっていた。
また中国の住宅取得では日本に較べて、住宅ローンへの依存率が約50%と低い。中国の家計が背負う債務の可処分所得に対する割合は35%で90年代に日本の130%に較べると相当低い。
もっとも中国で(まだ)住宅バブルに火がついている訳ではないが、北京や上海の住宅価格が大部分の一般人の手が届かないものになっている事実は深刻な社会問題である。当局は投機的取引を抑える目的で5年以内に売却される住宅に対して再課税を行うなど、投機的取引を抑制する施策を実施している。そして住宅価格抑制策を直ぐ取らないと、バブルに火がつく可能性がある。
【中国は過大投資なのか?】
昨年の中国の固定資本投資はGDPの47%と推定される。これは日本のピーク時より10%高い。大部分の先進国では固定資本投資はGDPの約2割である。しかしこの数字だけで中国は過大投資だと判断することはできない。何故なら日本や米国の一人当たりの固定資本のストックに較べると中国のそれは5%と非常に低い水準にあるからだ。
中国は旧ソ連と同じく資源の大きく誤った配分を行っているという議論もある。資源の効率的配分度合いを測定するには、全要素生産性が最適である。もし中国がソ連と同様に資源の無駄な配分を行ってきたのであれば、全要素生産性がマイナスになるはずであるが、中国は過去20年間世界で最も高い全要素生産性の伸びを示してきた。
また中国の産業界が明らかに余剰能力を持っているにしても、批判者は実態を過大視している。金融危機前の2008年において中国の一人当たり鉄鋼生産量は米国よりも高かった。なぜかと言うと中国は工業化の段階にあるので、多くの鉄鋼を使うからである。
つまり現在の中国の鉄鋼生産能力は工業化の段階にあった米国や日本と比較されるべきである。UBSのアナリストによると、現在の中国の鉄鋼生産能力一人当たり0.5kgは、1920年代の米国の0.6kgより少し少なく、日本のピーク(1973年)の1.1kgよりはるかに低い。
また多くの評論家は中国の昨年の資本投資は生産能力の余剰を悪化させただけだと不満を述べるが、実際はインフラ投資が大部分で工業への投資は減少している。
中国はまだまだインフラ整備を必要としている。例えば中国の農村の5分の2はまだ近くの商業地につながる舗装道路を持っていない。また鉄道を例に取ると中国とほぼ同じ面積の米国では1916年に40万キロ以上の路線が完成していたが、中国では2012年までに11万キロの路線を完成させる予定である。
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このように見てくると中国の設備投資は、発展途上国が先進国に移行する段階で必須のインフラ投資に関わるもので、今の段階で過剰設備問題の懸念は少ないというエコノミスト誌はかなり説得性がある。
一方エコノミスト誌は「過剰な銀行融資」は一番の懸念材料という。この点については次のブログで紹介したい。