【中国の過剰な銀行融資】
中国の「資産バブル」や「過剰投資」については大きな懸念を示さないエコノミスト誌だが、過剰与信には懸念を示している。同誌によると昨年30%以上伸びた銀行与信は今年は2割以下に減速する見込みだが、それでも年末にはGDPの135%に達する可能性がある。過剰与信を懸念する人民銀行は既に政策金利を引き上げているが、先週準備率を0.5%引き上げた。
もっとも昨年まで中国の過剰与信が他の国より甚だしかったか?というとそうでもないとゴールドマンザックスのアナリストは述べている。与信残高の伸びと名目成長率の伸びのギャップは大部分の先進国より小さいというのがその論拠だ。
昨年増加した与信の大きな部分はインフラ関係であり、返済の見込みは少なく、最終的には政府の負担につながるものだろう。そこで重要な疑問は政府にその負担能力があるかどうかという点だ。
公式的な中国政府の債務はGDPの20%以下である。もっとも中国に対して悲観的な見方をする人は地方政府の債務などを加えると、中国の公的債務はGDPの50%になるのではないか?と推定している。しかし50%としても先進国の平均90%程度~日本の国債残高はまもなくGDPの2倍になる~、に較べるとかなり低い。また中国政府は上場している中国企業の株式~GDPの35%に相当~など多くの資産を保有しているので財政面のゆとりは先進国より大きいといえる。
【中国でバブルがはじけるとどうなるか?】
今まで見てきたようにエコノミスト誌は中国の経済状態は今のところバブルではないという見方を示しているが、将来バブル状態になり、はじけたとしても日本のように不況が長く続くことはないだろうという見解を示している。
その理由は現在の中国と80年代後半の日本の違いにある。80年代後半の日本は先進国として既に成熟していた。一方中国は未だ貧しく発展途上の国であり、一人当たりGDPは米国や日本の10分の1より少ない。従って資本財を蓄積して先進国にキャッチアップする余地が大きい。
エコノミスト誌は「中国の現在の状態は日本の80年代のバブルよりも60年代のバブルとの類似性が高いだろう」という見方を示している。60年代当時の日本は年率9%と高度成長状態にあったからだ。バブルが崩壊した後、経済成長率は一時6%以下に低下したが、すぐに10%成長に戻りそのペースが長く続いた。
【日本からの教訓】
中国の経済状態は日本の60年代との対比で考えるべきかもしれないが、中国の政治家にもっとも影響を与えているのは日本の80年代の経験である。そして彼等は日本のデフレと失われたニ十年(昔は失われた10年だったが、いつの間にかdecadesと複数形になってしまった。)はプラザ合意でドル安・円高になったことが原因だと判断し、人民元の切上に反対しているのである。
これに対しエコノミスト誌は「日本の本当の誤りは円高を許したことではない。円高を認めることを引き伸ばしすぎたので、円高を認めた時円が急騰したのである」と第一の問題点を指摘し、そして次の日本の間違いは「円高による経済のマイナス効果を緩和するために、金融緩和策をとったことである。もし引締策をとっていたならば、金融バブルはもっと小さく、その影響も小さかった」と述べている。
☆ ☆ ☆
「中国はバブルの轍を踏むのか?(その1)」について、ファーブルさんという方から丁寧なコメントと幾つかのご質問を頂いた。その一部について簡単に私のコメントを述べたいと思う。
一党独裁体制については欧米では問題にしていないのでしょうか?他の新興国についても同様にどうでしょうか?
投資やビジネスの観点からみても(つまり政治的・思想的な観点ではなく)一党独裁制について、問題視する人はいます。一党独裁の場合は万一政権が転覆した場合の政策の振幅度合いが想像しにくいという問題があります(他にも問題は沢山ありますが)。ただしアジアの多くの国は少し前まで事実上一党独裁体制でした。因みにいうと日本も昨年夏民主党が政権を取るまで一時期を除いて、戦後は事実上自民党の一党独裁体制でした。もっとも自民党の中の派閥が交代することで、世論を反映していくということはありました。
中国における一党独裁にもこのような面があると見ておいて良いでしょう。
経済が発展する過程では一党独裁制の方が迅速に意思決定ができるというメリットがありますが、経済状態が一定レベルに達すると国民の参政意識が高まり、一党独裁は維持できなくなります。中国の今後の最大の課題は、一党独裁制を維持しうるかどうか?もし複数政党を認めるならいかにスムーズに移行するか?また一党独裁を維持するなら、高まる国民の政治への感心にどのような方法で応えるか?ということでしょう。
発展途上国の中で複数政党による議会制民主主義を行っている国の代表はインドです。独立時より民主主義の下、複数の政党による政党政治が行われてきました。このためインドは中国より経済発展の速度が遅かったという人がいます。しかし現在のインドの経済成長には目を見張るものがあります。もともとインド人は論理性が高いうえ、政党政治で議論に慣れているので、高度な分野においては中国人より優位性があるという意見もあります。