2009年に政権を取った民主党が行ったことの一つに事業仕分けがある。つまり政府支出の無駄を減らそうという試みだ。局地的には多少の無駄をあぶり出すことはできたかもしれないが、マクロ的にはさほどの財源捻出は出来なかった。このことは多少なりとも財政問題に関心のある人ならば完全に予知できたことである。
何故なら日本の「社会保障費」を除いた政府支出は先進国の中でも一番低いからだ。また資本財への支出も95年をピークに着実に減少している。IMFはSustainability Reportでこのことを次のように指摘している。「日本の非社会保障支出は対GDP比で16%(2010年)とG20先進経済の中で一番低く、資本財への支出も妥当な水準まで低下していて、財政支出削減の余地はほとんどない。一方税収は消費税と個人所得税の低さを反映してG20の中で一番低い」
つまり社会保障費以外の支出を削減して財政健全化を図ろうというのは、実効性はなく政治家のパフォーマンス以外の効果はない。
次に社会保障費の問題について考えよう。日本の社会保障費は年間108兆円(日経新聞朝2011年11月27日朝刊)。高齢化で毎年1兆円を上回るペースで増えている。IMFは社会保障費の7割は高齢者にかかわる支出だと推定している。
今日(11月28日)の日経新聞朝刊に「社会保障の給付と負担に関する」世論調査の集計がでていた。それによると「給付水準を抑えてでも費用負担を抑えるべきだ」が47%、「費用の負担を増やしてでも給付の水準を維持すべきだ」が35%だった。
ところで日本の社会保障費は諸外国と較べるとかなり低い水準である。少し古い統計だが、2003年のOECD20カ国の社会保障費の対GDP比率を比較した資料を見ると、トップはスウェーデンの31.9%、2位がフランス29.1%、3位がドイツで28.5%、日本は16位で18.4%、米国は19位で16.6%だった。
社会保障費を「年金」「医療」「その他」に分けると、「障害・労災・傷病」を含む「その他」の分野で日本の支出が一番低いことが特徴的である。また「保健医療」に関するGDP比支出割合を見ると、日本は6.1%でOECD平均の6.3%を下回っている。
以上のことから考えると日本で社会保障費を削減するとすれば、年金給付削減に焦点をあてるしかないと考えられる。
年金給付の削減については支給開始年齢を68歳に引き上げる案が政府与党案に盛り込まれたが、小宮山厚労省大臣は来年の通常国会には法案を提出しないと述べている。年金給付の削減もまたハードルが高いのである。
財政調整は増税と歳出削減のコンビネーションで行なわれるべきだが、日本の場合歳出削減余地は少ない(だからと無駄を削減しなくて良いという訳ではない)ので、消費税の引き上げを中心とした増税に焦点をあてないといけないのである。