金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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懸念はイタリアから銀行、そしてフランスまで視野に入れる

2011年11月15日 | 金融

昨日(11月14日)のイタリア5年国債30億ユーロに入札利回りは、6.29%と過去最高の水準(先月は5.32%)だった。応札したのは主にイタリア国内の銀行や投資家だった。市場はモンティ新首相の門出に手厳しい判断を下したようだ。

同じ日にイタリア最大の銀行ウニクレジットが第3四半期の損失が過去最高の106億ユーロに達すると発表した。赤字の主因は過去の買収やギリシャ国債にかかわる評価損だ。同行は資本増強と6千人を超えるリストラを発表した。

このような中欧州の銀行に対する懸念が高まっている。欧州の銀行は国家と不可分の関係にあるので、国家に対する信用懸念は銀行の損益やバランスシートを直撃する。

米国の財務相でAIGのリストラを担当したジム・ミルスタイン氏はFTにEurope's largest bannks have become too big to saveという寄稿をしている。その中で同氏は「欧州国家の赤字を主にファイナンスしているのは銀行で、銀行の資産の大きな部分は国債だ」と指摘する。

特に目立つのがフランスの銀行だ。フランスの銀行は過去10年程の間、買収や支店網の拡大によりイタリアの資産を拡大してきた。ニューヨーク・タイムズはKeefe,Bruyette & Woodsのレポートを引用しているが、それによると仏銀はイタリア国債を1千億ユーロ以上、民間向け融資を3千億ユーロ以上保有している。

仏銀のバランスシートが国家経済の規模に較べて大きいのも問題だと前述のミルスタイン氏は指摘する。同氏によると仏銀大手5行の資産残高はフランス経済の3倍以上に達するという。

念のため大手仏銀の資産残高を調べると、世界で一番資産規模が大きいBNPパリバは2.7兆ドル弱、4位のクレディアグリコールが2.1兆ドル、16位のソシエテジェネラルが1.5兆ドル。この3行合計で6.3兆ドルだからフランスのGDP2.1兆ドルの3倍になる。

ミルスタイン氏は「万一仏銀の1行でも無秩序な破綻に陥ると、フランスのみならず全ユーロ圏の信用市場が機能不全に陥る。にもかかわらずフランス一国では破綻銀行を救済することができない」と問題点を指摘している。

更に見ると信用の連環は米国にまで広がっている。フランスの銀行は他の国の大手銀行に較べて市場性資金への依存度が高い。米国のMMFや金融機関もその一翼を担っている。10月末のMMFのフランスのエクスポージャーは840億ドルだ。

米銀のフランスに対するエクスポージャーの推計には幅がある。議会調査局のレポートによると米銀の独銀・仏銀に対するエクスポージャーは1.2兆ドルを超えている。

仏銀の影は大西洋を越えて米国にも伸びている。

イタリア国債の残高はギリシャの5倍を越える2兆ユーロに近い。万一イタリア国債にヘアカット(債務償却)のような問題が起きると、フランスの銀行を初め欧州の銀行のバランスシートを直撃する。今のところイタリア国債がヘアカットされるリスクは極めて小さいだろう。だがフランス国債の利回りがじりじり上昇していることを見ると投資家の中ではイタリアの同心円上にフランスを見ている人が増えているのだろう。

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