金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

顧客の評判が良くない大手銀行

2006年11月13日 | うんちく・小ネタ

「顧客の評判が良くない大手銀行」というタイトルを見てドキリとしたり「そうだ、そうだ」と共感する人がいるかもしれないが、これは日本の話ではなくアメリカの話である。もっとも日本でも同じようなものかもしれないが。

11月12日のウオール・ストリート・ジャーナルに次のような記事が出ていた。

  • アメリカ人は銀行の技術的なサービスについては高い評価を与えているが、顧客の目的を理解するため又は彼等のビジネスを理解するために時間を割くといった感情面のサポートについては高い評価を与えていない。この結果ひどく敵対的になっている顧客がいる。
  • IBMのコンサルティング部門のIBMグローバル・ビジネス・サービスが約3千人の銀行顧客を調査したところ、52%の人が銀行は「合理的な面」~銀行業務へアクセスする多くの方法を提供するとか間違いを修正するとか~では良い仕事をしていると感じている。
  • しかし「顧客のビジネスを評価する」「銀行員が顧客の言うことを聴いてフォローアップする」「関係のある提案を行なう」といった「感情的な面」で良い仕事をしていると感じる人は26%である。
  • IBMの調査は顧客に対して「その銀行を友人に推薦するか?」「新しい商品が欲しい時その銀行にアプローチするか?」「他の銀行から競合商品の勧誘を受けても従来の銀行に留まっているか?」という形で質問を行なっている。
  • その回答は約24%の人は「自分が使っている銀行を擁護する」約39%の人は「無関心」約37%の人は「反対する(敵対的)」である。

ここでちょっと面白いと思ったのは、「擁護・無関心・敵対」の3つの言葉が英語では"A"から始まることである。Adovocate(擁護)、Apathetic(無関心な)、Antagonistic(敵対的な)である。Apatheticは知らない言葉だったが、セットで覚えておくと便利だろう。

  • IBMグローバル・ビジネス・サービスの銀行部門のヘッド・アームストロング氏は「銀行を擁護する人が少なく、敵対的な人が多いのでショックを受けている」「金融機関の種類別では信用組合(Credit Union)やコミュニティ・バンク等地域金融機関の評価の方が全国銀行より高い」「銀行が顧客や顧客の事業を評価していないので顧客はますます敵対的になる」という。「学ぶべきことは金融機関が何が顧客満足度を高めるかということをより熱心に見ることである」と同氏は言う。

この記事を読んだ後、某信託銀行の支店に現金を引き出しに行くとATMの数字盤に「数字をシャッフルするにはここを押してください」という表示があった。これは暗証番号の「盗み見」を防止するため数字の配列を不規則なものにするという意味でシャッフルという言葉を使っているものだ。シャッフルはShuffleで「足を引きずる。かき混ぜる。トランプの札を混ぜて切る」という意味だが、この言葉はそれ程一般的に使われていないだろう。「シャッフル」という文字を見て不安や戸惑いを感じる人もいるのではないだろうか。銀行のATMは英語に堪能な人だけが使う訳ではない。高齢の方の利用も多いはずなので、もっと平易な日本語で説明するべきだろう。

ついでにいうとこの銀行ではATMにICカード対応機と未対応機があり、それぞれカードを差し込む方向が反対になる。この辺りの説明も不十分で苦労しているお客さんがいた。私自身は銀行のIT化を支持しているが、不便に思う顧客が多いことを銀行は十分認識しておくべきだろう。さもないと4割近い人が大手銀行の対応に敵意を抱いているというのはアメリカの話で済まなくなるかもしれない。

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観音様も出開帳で大変ですね

2006年11月12日 | うんちく・小ネタ

今日(11月12日日曜日)ワイフと上野の東京公立博物館に仏像特別展「一木にこめられた祈り」を見に行く。最大のお目当ては滋賀県・広源寺の十一面観世音菩薩である。

Kougennji 今回展示されている仏様の中で一番多いのは十一面観世音菩薩である。菩薩とは仏陀の前身で他の衆生が悟りに到達するまで自らも悟りに到達しまいとするものだ。この菩薩の中で慈悲を顕現したしたのが観音菩薩でその中で古い時代に人気が高かったのが十一面観世音菩薩である。

広源寺の十一面観世音は平安時代の作である。緩やかに逆くの字に曲がった体は柔らかく肉感的でさえある。特徴的なのは牙上出面(くげじょうしゅつめん)と瞋怒面(しんぬめん)の各一面が左右の耳の後方に配置されているところだ。

今回出展されている仏像は素晴らしいものが多いがこの広源寺の観音様は中でも素晴らしい。

さて展示されている仏像は平安時代後期(11世紀)からいきなり江戸時代の円空と木喰(もくじき)まで飛ぶ。この間5,6百年の時間が経っているのだが、一木作りの仏像は作られなかったのだろうか?という素朴な疑問が湧いた。

簡単に思いつく答は鎌倉仏教(日蓮宗、浄土真宗・曹洞宗など)は、余り仏像崇拝を行わなかったということだ。私は勝手にこれを「日本仏教の哲学化」と名付けることにした。今回展示されている仏像は、観音菩薩の他に毘沙門天や十二神将が多いがこれらの仏様は神秘主義的である。あるいは物語的である。ところが鎌倉仏教はもっと哲学的である。

鎌倉仏教が哲学的というと「ひたすら阿弥陀如来を拝む浄土真宗のどこが哲学的なのか?」という批判を受けるかもしれない。これは長い議論になるので省略するが、少なくとも親鸞聖人の教えは神秘的ではない。私は鎌倉仏教が思弁的になったことで仏像特に一木作りの仏像が衰退したという仮説を別途掘り下げてみたいと考えている。

江戸時代になって一木作りは素朴な庶民信仰の中に復活するのである。江戸時代は鎌倉仏教の教義や精神が空洞化した時代であったともいえる。仏教が檀徒制度という幕藩体制の中の個人情報管理システムを担うことで堕落したことに対する抗議が円空仏になったと言えるかもしれないなどと思いながら私は博物館を後にした。

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ディールで勝つにはまず金だろうね

2006年11月09日 | 金融

ある業界紙に「日本は何故金融でアメリカに勝てないのか?」ということを数度に分けて論じてきた。特定の読者層を対象として雑誌なので、やや婉曲な言い方をとっているがずばっと一番の核心をいうと「役職員への報酬が違う」という点だ。特に投資銀行というのは桁外れた報酬を払う。これは戦国時代でいうと豊臣秀吉が戦陣で金貨銀貨を積上げて、手柄を立てたものに目の前で配ったのと同じ方法だ。戦国武士へのインセンティブは恩賞だけではないが、恩賞が最も分かりやすいモチベーションの高め方であることは事実だろう。秀吉の日本統一は気前の良い恩賞の賜物である。

さて11月7日付のウオール・ストリート・ジャーナルは以下の様な記事で投資銀行のボーナスが上がったことを報じていた。

  • 株価が高値新記録を更新し、企業業績も好調なので投資銀行の利益は過去6年で最高になった。これは投資銀行業務のバンカーやトレーダーが前年より10%から20%高い年末のボーナスを受取ることを意味する。
  • ゴールドマン、メリル、モルガン・スタンレー、リーマン・ブラザース、ベア・スターンズの5つの投資銀行の純利益はこの9ヶ月間で34%増加している。伝統的に投資銀行は純利益の半分を報酬として支払ってきたが、近年コスト抑制を図る企業も出てきたので企業収益の伸びに報酬はついていっていない。また従業員数が増えているので一人当たりの報酬増加額は企業収益ほどには伸びない訳だ。
  • 典型的なインベストメント・バンカーの年収は次のとおりだ。

   投資銀行部門の全世界のトップ:1千万ドルから1.2千万ドル、投資銀行部門の部門長(MD):2.2百万ドルから3.8百万ドル、投資銀行部門の新人アナリスト:13万ドルから15万ドル

1.2千万ドルというと約15億円だ。中々のものである。なお地理的にはアジア地区のボーナスの伸びが一番で欧州、米国の順。つまりM&Aなどの増加率が高い地域程報酬も高くなっている訳だ。

日本でも野村證券やみずほコーポ銀行などが、M&Aに力をいれてそれなりにディールを取っている。しかし彼等のバンカー(M&Aのオフィサー)はこれ程高い報酬は得ていないはずだ。だから優秀なバンカーは嫌気がさして米系の投資銀行に移るのである。

金融も野球などスポーツと同様グローバルな企業がグローバルに人材を採用する時代である。日本の金融機関の内部でだけ通用する理屈で、優秀なバンカーの報酬を押さえる様なことをしていると競争に勝てる訳がない。結局それは高いディールの報酬を外資に渡し、彼等を喜ばせるだけのことである。

ここは大盤振る舞いの秀吉スタイルが必要なのだろう。

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エドケンと歴史教育

2006年11月08日 | うんちく・小ネタ

エドケン、江戸文化歴史検定についてはこの前書いたけれど、追加でちょっと思うところを書こう。

エドケン3級の問題の中に「小名木川(隅田川に入る運河)を開削した目的は次の物品の内どれを運ぶのが一番の目的だったか?」という主旨の問題があった。答は「塩」なのだが、僕はこのことを嵐山光三郎の「芭蕉紀行」で読んだことがあった。「芭蕉紀行」の中の「江戸の桃青」の中に次の記述がある。

小名木川は江戸に入った家康が最初に手をつけた開削工事であった。甲州の武田氏がほろびたのは、塩が手に入らなかったことも一因である。・・・北条氏に塩留めされ、兵士生死をさまよった。家康は行徳で生産さえていた塩を、直接江戸城に運び込むため運河小名木川を開削した。江戸の海は泥水で塩はとれない。小名木川は江戸の生命線であった。

徳川家康は武田氏が滅んだ後、武田家家臣を沢山雇い入れている。その中に信玄が塩で苦しんだことを教えた者がいたのかもしれない。あるいはこのことは広く知られていたことなのだろうか?いずれにせよ家康が都市・城郭の生命線である塩の輸送路を重視したことは大変興味深い話である。

歴史を学ぶとは単なる事実を学ぶだけではなく、その背景やその行為の裏にある行動者の意識を推測し、事実の中から生き生きとした情景を立ち上がらせる作業である。そのリアリティを感じられるかどうかが歴史好きになれるかどうかの別れ際である。

私はかって一、二度芭蕉案のあった小名木川付近を歩いたことがある。この付近では清澄庭園がかろうじて江戸の面影を残している。清澄庭園を歩きながらこの辺りから江戸湾や富士山が見えたなどと想像すると、芭蕉が隠棲した付近はまことに風光明媚な場所だったと想像できる。

このように想像の翼を羽ばたかせると、歴史と文学の世界は面白い。このように面白い歴史だが、今履修漏れ問題に悩む先生や高校生諸君はこのようなことを考える余裕はあるまい。拙速な補習等で歴史嫌いを作ってしまってはマイナスと考える次第である。

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クレジットカード事業、日本で拡大中

2006年11月07日 | 金融

日本の金融は何年か遅れで米国を追いかけている。米国で発達していて日本で遅れていたものが、クレジットカード決済だったがようやく拡大に兆しが見えてきた。ウオール・ストリート・ジャーナルは11月6日に「日本で銀行と消費者がプラスチック(クレジットカード)に傾いてきた」という記事を書いている。

実は私は12月にある雑誌に「電子マネーの離陸」(仮題)という記事を掲載する予定である。この小論文の一つの論点は「JR東日本・ドコモ・大手銀行などは電子マネーを尖兵としてカードビジネスの拡大を図る」というものだ。カードビジネスを巡っては銀行VS銀行よりも、銀行VS巨大顧客データベース会社(ドコモ・JR東日本)あるいは巨大顧客データベース会社間の戦いが始まろうとしている。

ところで私が評価しているクレジットカード(イシュアー)は、シティバンクとJR東日本だ。何故かというと前者はもしフルに使うと返済に困る程にクレジット・リミットを勝手に引き上げて連絡してくれる。その思いっきりの良さがいい。それと最近は海外出張や旅行が減ったが海外で何かと心強いカードである。後者はスイカと一体になっているので毎日携帯している。貯めたポイントも電子マネーに振り返ることが出来るのでとても経済的だ。

さて記事のポイント。

  • 日本の銀行は長い間カードビジネスを無視してきたが、今その拡大に力を入れている。このためクレジットカードの利用が拡大している。アメリカン・エクスプレス社によれば、米国では消費支出に占めるカード決済の比率は約25%で日本では8%である。またVISAカードによれば昨年米国では平均して4,135ドルのカード支払請求があったが、日本では1,500ドル相当だった。
  • しかし今カードビジネスは日本で離陸しつつある。政府データによると2006年3月期に日本の消費者は24.3兆円のカード支払を行なったが、これは前年比14%の増加である。増加率は05年3月期が10%で04年3月期が6.4%だった。
  • この成長は部分的には消費者の習慣の変化による。オンラインショッピングの人気が高まり、若者層がクレジットカードを歓迎している。また日本の従来低かった犯罪率が増加しているので現金の携行リスクが高まった。
  • もう一つの理由は三菱UFJやみずほといった大手行が不良債権の処理を終え、成長の資源を求めだしたことである。企業与信が伸びないことで、銀行はかっては預金取引しかしなかった個人客に焦点をあて始めている。そして住宅ローンや投資信託、クレジットカードをシャワーのように投入している。クレジットカードが日本の銀行の収益に占める割合は小さい。三菱UFJでクレジットカードを含む消費者金融ビジネスの総収入に占める割合は7.8%である。これに較べてバンクオブアメリカでは、総収入の17%がクレジットカード関連業務から得られている。(2005年度)
  • 日本の銀行がクレジットカードビジネスを推進するので、VISAやマスターカードといった米国のクレジットカード会社(正確には「ブランド」)が利益を得ている。アメリカンエクスプレスは昨年全世界で消費者の支出が16%増えた。日本の成長率について同社は正確な数字を公表しないが、経営陣によると年率20%から25%で拡大している。
  • みずほはクレジットカード事業拡大の先端を行く。みずほは過去2年間でATMカードと一体化したクレジットカードを約2百万枚発行した。これは顧客の反対がない限り新ATMカードにクレジットカード機能を付加したもので、基本的サービスについて年間手数料は無料である。銀行の一つのゴールはクレジットカード発行のサインをしたがらない高齢者層の手にクレジットカードを滑り込ませることにある。みずほ銀行は「クレジットカードがATMカードと一緒になると、高齢の顧客でもサイフの中にカードを入れて携行し始める」「これは我々に新しい市場を開く」と言う。またみずほはカード利用の頻度を高めるため、顧客が最低月一回カードを利用すると、ATMにおける幾つかの取引手数料(送金等か?)を免除している。三菱UFJは電子マネーと一体化したATMカードの発行を始めた。
  • もっともチャレンジは続く。それはリボルビング決済が日本では低いことだ。米国や他の幾つかの国ではリボルビングが銀行の主な収入源になっているが、日本ではリボルビングの利用は1割よりかなり低い。

ということだが、消費者の観点からいうとリボルビングは金利が高いので出来れば避ける方が賢明である。高額の買い物や海外旅行をする場合、リボルビングが便利に見えるができればそれ以外のファイナンスソース(例えば定期預金を崩すとか金利の低い担保付借入を使うとか)を使う方が賢明だろう。

それはさて置き『使われる一枚』のカードになるべく、銀行やその他カード会社が工夫をし始めた。消費者が賢い選択をするチャンスは広がっている。そして旧態然としたサービスしか提供できないカード会社や銀行にとっては厳しい淘汰の時代が始まろうとしている。

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