エコノミスト誌は最近「中国は一般に信じられている程過剰投資ではない。それは統計数値が間違っているからだ」という小論文を発表した。ここで展開されているロジックは一般に公開されている数字とごく基本的なマクロ経済理論だけで組み立てられている。こういうすっきりした論文を読むと気持ちが良い。
- 多くのコメンテーターは中国の設備投資は過大で、早晩、資本投資の急激なスランプが経済をクラッシュさせると信じている。政府の統計によると中国の設備投資はGDPの45%以上になる。これは先進国の平均値21%に較べるときわめて高いし、1997年の東アジア危機以前の同地域の平均に較べても高い。
- しかし統計数値に関する推理を行なうとこれらの数値が正しくなく、もし正しく計測するなら、設備投資は相当低くなることが分かる。従って中国の設備投資のGDPに占める割合は他の大部分の国に較べると高いものの、警告のレベルは低くなる。
- 中国の公式数値は以下のようなことで精査することができる。
* GDP成長率と固定資産投資に使われる数字の互換性がない。もし設備投資がGDPの45%を占め、設備投資の年間増加率が25%とすると、設備投資だけでGDP成長率を11%押し上げることになる。(45%×25%=11%) しかし政府統計によると、この他に消費と純輸出が6%貢献している。ということはGDP成長率は現在の10%ではなく、17%ということになる。しかしこれはGDPに対する設備投資の割合が過大に計算されている可能性の方がはるかに高い。
* 理論的に投資と貯蓄の差は経常収支であり、昨年中国の経常収支はGDPの7%だった。もしGDPに対する設備投資率を45%とすると貯蓄率は52%になる。しかし多くの研究はもっと貯蓄率を低く見積もっている。世界銀行の最近の白書は中国の貯蓄率を44%と示唆している。もし、この数字が正しいとするとGDPに対する設備投資比率は37%になる。
- これらのことからゴールドマンザックス香港のエコノミストは中国の設備投資の水準と成長率は過大に計上されていると結論付けている。これは本来設備投資に含まれない土地の売買代金が参入されていることによる。これと同時に消費支出は過小計上されるが、恐らく消費の過小計上は投資の過大計上より多いだろう。このことはGDP自体が過小計上されていることを示唆する。もし投資が少なくGDPが大きいとすれば、設備投資の実態はGDPの36-40%程度だろうと前述のアナリストは言う。
- この水準にしても他国と比較すると相当高い。もし中国が莫大な過大投資を行なっていたとするならば、資本に対するリターンは低下するはずである。しかし世界銀行が最近指摘している様に投資ブーム中、中国の企業の利益率は上昇している。
- もう一つの投資効率を図る尺度は、限界資本生産性比率(ICOR: Incremental Capital-Output Ratio)である。これは追加的な1単位の生産を得るためにどれだけ投資を行なう必要があるかを示すもので、年間設備投資額をGDPの年間増加額で除して算出する。この数値は中国では1990年初頭以来3%から5%に急速に上昇している。言い換えると中国では今追加的な1ドルの生産物を得るために以前は3ドルで済んだ設備投資を5ドルにする必要があるということだ。多くのコメンテーターはこれをもって投資はより低いリターンしか生まないし、中国のICORはインドよりも高いと言う。
- しかしICORは時系列的なあるいは異なる国の投資効率を測定する上で、不十分な尺度である。まず既に述べたとおり中国の投資が過大に計上されている。第2の問題は経済が発展し、資本集約的になると経済成長を支えるために、より多くの投資が必要になるという点だ。更に中国の急速な経済成長は道路、港湾、住宅への多額のインフラ投資を必要としていることだ。これは短期的な投資リターンを低下させる傾向がある。インフラ投資は工場への投資に較べて効果の発現に時間がかかるからだ。
- 最後に比率は減価償却を無視したグロスベースで計算されていることだ。中国の投資の大きな部分は計画経済時代に創設された質の低い産業基盤をリプレースするものである。前述のゴールドマンのエコノミストによれば中国の近年のネットベースの平均ICORは他の国より低い3.1だという。
- これは中国のあるセクター、例えば鉄鋼とか自動車が過剰投資であるということを否定するものではない。幾つかのプロジェクトは上手く機能しないファイナンスシステムや政府の干渉のため利益がでない構造になっている。しかし中国の投資ブーム全体を「やがてはじけるバブル」として簡単に片付けることは恐らく間違っているだろう。