最近のエコノミスト誌を読んでいるとETF(上場型投資信託)が金融の民主主義化の担い手かあるいは毒を撒き散らすか?という記事が出ていた。民主化はDemocratisationだが、中辞典位では出ていない。比較的新しい言葉だろうか?ETFの話は後ほど紹介するとして金融の民主主義化という言葉には興味を持った。この言葉が日本で一般化するには10年の歳月を要するかもしれないしあるいは永久に一般化しないかもしれない。しかし巨大な資金を持つ投資家も個人投資家も同じ条件で取引できるという概念はすばらしい。実は私のブログの一つの目的も個人投資家に金融知識を普及することにある。そして今まで明確に自覚はしていなかったが、その地平には金融の民主化がある。
さてエコノミスト誌のポイントは以下の通りだ。
- 米国に上場されているETFは昨年4割増えて4,180億ドルに達している。現時点では10兆ドルの資産を持つ投資信託に比べるとETFの残高は少ないが、モルガンスタンレーのFuhr氏は2011年までにETFの残高は2兆ドルに達すると予測する。
- ETFは株式市場においても恐るべき力を発揮している。昨年8%以上の米国株式取引はETF経由で行われた。
- ETFはファンドと株式という二面性を持っている。ETFは取引所を通じて売買できるので投資家は個別株をバスケットで買う代わりにETFを購入することができる。またETFは個別株の空売りに関するアップティックルールが適応されないので相場の下落時に空売りされることがある。
アップティックルールというのは1934年に米国証券取引法で定められたRule10a-1で、直前の取引価格より低い値段で空売りすることを禁じたルールである。これにより相場を下げるために空売りすることを防いでいる。ETFがこのルールの例外ということは、相場の下げ局面でETFが下落に拍車をかける可能性があるということだ。
- ステート・ストリートとともにETFのビッグプレーヤーであるBGIは「ETFは大きな投資家も小さな投資家も同じ条件で取引できるので、金融民主主義化の力になる」と言う。またETFによって投資家は安くベータを手に入れることができる。
株式投資におけるベータとは「市場価格の変動に対する追随度合い」である。ETFには金融等色々なセクターのETFがあるので、このセクターETFを使うと市場全体の動きより激しいあるいは緩やかな変動をする投資が可能ということだ。
- ETFの人気が高まるにつれて、特殊な資産クラスを代表するETFが出現してきている。スピンオフした会社、プライベート・エクイティ、金、知的財産権のようなものをトラックするETFも出現している。この結果個人投資家でもETFがなければアクセスできないような資産クラスにアクセスが可能になった。ステート・ストリートのゴールドETFは最も人気のあるETFである。
もっともこれらのETFが投資家が思う程正確に選択したセグメントの動きをトラックしていないだろうとエコノミスト誌は推定する。幾つかのETF組成者は全体のセクターの動きを模倣するのに数銘柄で代替させている。
- ETFを最も声高に批判するのはバンガードの全代表ボーグル氏だ。彼はETFをショットガンにたとえ、「狩にも適しているが自殺にも適している」と言う。彼はETFが「長期保有」という健全な投資の原則の土台を崩していると考える。
これはETFがトレードしやすいことで、投資家が過度に売買を行いその結果売買手数料が大きくなり、コストが安いというETFのメリットを失わせるという主張だ。
もっともこの意見に異論を唱えるものは大部分の取引は個人投資家ではなく機関投資家が行なっていると反論する。
なおエコノミスト誌によると業界の大きなチャレンジは「アクティブETF」を作るということだ。つまり伝統的な投資信託のようにアクティブに株式投資を行なうが、ETF自体が売買されるというものだ。こうなるとETF=株価指数連動型商品などという理解は吹っ飛んでしまう。
金融商品の開発・発展の裏には二つのモチベーションがあるだろう。一つは開発業者にとって新しく手数料を稼ぐフィールドを作り出すこと。もう一つは既存のスキームの上で胡坐(あぐら)をかいている保守的な業界に消費者・投資家に役に立つ商品を投入するということ。
単純に株価指数をトラックするETFは投資家に低いコストでパッシブ運用する機会を提供した画期的な商品である。しかしアクティブETFとなると首をひねりたくなる。しかしいずれにせよこれは米国の話だ。日本ではETFの人気はまだ高くない。TOPIX連動型はそこそこ流動性があるが、それ以外のETFは流動性に疑問がある。
ETFが金融の民主主義化の度合いを測る尺度とすると、日本の金融はまだ封建制度に肩まで浸かっているといわざるを得ない。