金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

日本に消費ブームは来るのか?

2007年04月20日 | 社会・経済

今週のエコノミスト誌は「日本に間もなく消費ブームが来る」という予測は発表した。私が見る限りエコノミスト誌の日本経済に対する過去の予測は相当当たっているので、この予想にもある程度信頼を置いているが気になるところもある。それは後程コメントするとしてまずは記事のポイントを見ておこう。

エコノミスト誌が日本に消費ブームが来ると予想する理由は次のとおりだ。

  • 失業率は4%に低下している。しかし今年1,2月に関しては労働者一人当たりの現金給与は一年前に比べて1.1%低下している。グローバリゼーションは技術革新と相まって、賃金に下方圧力を与えている。
  • しかし他の説明の方が説得力がある。雇用は給料の高い製造業から給料の低いサービス業に移っている。また向こう3,4年間は給料の高い団塊の世代が退職し、給料の低い若年層が雇用される。

とここまではエコノミスト誌は給料が上がらない理由を列挙するが、次に給料が上がりその結果消費が増える理由を列挙する。

  • 失業率が低下し続けると賃金にかかる上昇圧力が加速するポイントに到達する。ゴールドマンザックスはこの臨界点となる失業率を2.5%-3.5%と見ている。そして今年年末までに失業率はこのレベルまで低下すると予測している。
  • 今新規に採用されている人の多くは7,8年前頃就職を諦めた人々である。この「戻ってきた落胆組」層はまだ購買力を発揮していないが近い将来他の勤労者と同様の消費行動を取ると思われる。
  • さらに2005年から企業は正社員の雇用を増やし始めている。正社員には賞与が支払われる。典型的には賞与は年収の2割を占めるので、その分所得が向上するということだ。
  • また団塊の世代の退職で退職金の総額は昨年実績の10兆円から今年予想の13.5兆円に拡大する。ゴールドマンザックスはこれにより消費が0.3%増えると推測している。カメラ店、釣用のボートの販売店、レストランが好調な業況を報じている。

なお記事は2月の消費者物価の下落はエネルギー価格の下落によるもので、再びデフレに陥る懸念は少ないと結論付けている。

私もエコノミスト誌の見通しに概ね賛成なのだが、幾つかの点で考慮しておく点があるので、コメントしよう。

一つは失業率の問題だ。失業率を考える時に「消費者に提供するサービスレベル」と「生産性」の問題を検討する必要がある。例えば人件費の安いアジアの国のカフェテリアで食事をすると、後片付けをボーイさんがしてくれるが、相対的に人件費の高い日本や米国ではセルフサービスが一般的だ。雇用情勢がタイトになると、日本ではもっとセルフサービスが増えるかもしれない。例えば日本のDIYや家電の店などで大型の買い物をすると無料宅配が普通だろうが、米国ではかなり高い配送料を取られた(個人的な経験だが)。そこで米国では大抵消費者がピックアップトラックなどの車で大型消費財を持って帰るのである。話が長くなったが日本ではまだまだサービスレベルを変えることが可能ということだ。

次のホワイトカラーの生産性。これは毎日身の回りで見ているが米国などに比べて恐ろしく低い。どう低いかということを事細かに書いているときりがないが、要はやってもやらなくても殆ど変わらないようなことに時間を費やしている社員が多過ぎるということだ。

比喩的な話だが、昔私がヒマラヤに遠征した頃は荷物運びの現地人ポーターを入れて数十名のマンパワーを使ったが、装備を軽くして今日風のヨーロッパアルプス的なアタック方式を取ると数名で済むかもしれない。人が増えるとその人に食べさせる食料、泊まるテント等の装備が増えてまたそれを運ぶ人が増えるという悪循環が発生する。

次に退職金だが、ゴールドマンザックスが予想するような退職金がキャッシュで支払われるかどうか疑問である。その理由は多くの会社で過去10年程度の不況期にリストラの一環として子会社転籍を実施しており、退職金のかなりの部分が既に支払われてる可能性がある。また退職金の年金化が進んだ結果一時金で支払われる部分が年金に振り変わっていると考えれる。ゴールドマンのレポートは読んでいないがその辺りがどこまで考慮されているか気になるところだ。

以上のようなことを留意しながら、今後の賃金動向の推移をウオッチする必要がある。これが金利と株の動向に一番影響を与えてくるだおるから。

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水底に映れる影

2007年04月19日 | うんちく・小ネタ

時々「鉛筆でなぞり書き」俳句百選を出して季節の俳句をなぞっている。字は上手くなりたいと思う。「写真きれいですね」と言われるより「字がきれいですね」と言われる方が百倍位うれしい。しかし余り真剣に練習しないので少しも上手くならない。とはいえ季節の俳句に親しむ夜は心穏やかに過ごすことができる。

水底に映れる影もぬるむなり 杉田久女(1890-1946) 

高浜虚子に師事したということ以外にこの人のことは知らない。この俳句が詠まれた背景も知らないが、水に映る影ということではこの前昭和記念公園の池に映ったチューリップがきれいだった。もう少し水面に葉っぱ等が浮かんでいなければもっときれいなのだが・・・

Mizuzoko

それにしても今年の春は例年より雨が多い様な気がする。もっとも天気予報によるとこの様な雨を「たけのこ梅雨」というそうだ。四月の雨を表す言葉がある位だから昔から春は雨が多かったのだろうか?

しののめに小雨降出す焼野かな 与謝蕪村

これは一日が始まった時に小雨が降った無常感を詠んだと解説にある。朝の雨が何故無常を表すのか知らないが、夜の雨は空しさを募らせる。

送別の花束濡らし雨到る 北の旅人

水底に映るにせよ、雨が降るにせよ春には水が着いて回るということなのだろう。

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満員電車は経済成長の証拠?

2007年04月19日 | うんちく・小ネタ

4月に入って一段と通勤電車が混んでいる。特に金曜日の夜、遅い時間の西武線に乗ったりすると大変だ。ギュウギュウ詰めになっている時は「次はもっと早く帰ろう」と思うのだが、遊んでいるとつい「もう、半チャン」などといって結局超満員電車に乗ってしまう。人間とは懲りないものだと思う。

しかしインドのムンバイの事を思うとこれ位で文句を言ってはいけない。ムンバイのラッシュ状況についてウオール・ストリート・ジャーナルに特集が出ていたので、ポイントを紹介しよう。

  • インドの経済成長に鉄道システムが追いつかないため超混雑が続いている。この混み具合についてインド政府は新しい言葉を作り出した。それはSuper Dense Crush Load (超濃密押し込み乗客ということだが、英語の方がリアリティがある)という言葉だ。
  • ムンバイの鉄道は一日にキロ当たり2万人の乗客を運ぶ。

このキロ当たり2万人という数字についてウオール・ストリート・ジャーナルは「人々を列車に詰め込む白い手袋をはめた押し屋で有名な東京はキロ当たり1.5万人でこれを上回る」と説明している。

手袋をはめた推し屋はGloved pusher、私が使っている西武線では学生班という腕章を巻いた青年がアルバイトで推し屋をやっている。詰め込み教育を受けて大学に進んだ後は今度は通勤・通学の人を詰め込む側に回っている訳だ。そして又暫くするとサラリーマンになり、今度は押される側に回る・・・・・。

因みにニューヨーク郊外ロングアイランドとマンハッタンを結ぶロングアイランド鉄道はキロ当たり420人だ。

  • ムンバイ鉄道の事故による死者の数は凄い。昨年3,404人が死亡した。これは平日一日当たり13人が死亡していることになる。事故は鉄道線路を横切って列車に登ろうとすることによるものが多い。

ではムンバイの鉄道がどれ位混んでいるかというと定員200人乗りの車両に550人が乗っている状態だ。1㎡当たり16人!にわかに信じがたいがこれは電話ボックスに16人が詰め込むのと同じ密度ということだ。

ムンバイ鉄道の乗客は過去15年に3割増え、通勤距離も3割増えた。鉄道システムの改善については州政府・政府のいがみ合いなどから先行き悲観的な様だ。引き続きムンバイ鉄道は世界で最も危険な乗り物であるらしい。

インドの高度成長はこの過酷な通勤列車の上に乗っている。

日本の現状に戻ろう。直感的な判断だが、通勤電車の混雑具合が一時より激しくなってきた。景気が回復し雇用が増え、又少し懐具合が良くなったので遅くまで遊んでいる人が多くなったのだろうか?ラッシュが経済成長のバロメータだとしてもこれ以上の混雑はご免である。

通勤列車を見る限り我々は全く後進アジアの真ん中にいる。ニューヨーク郊外の通勤者の様にベンチシートにゆっくり座りコーヒーを飲みながら新聞を広げるということは望むすべもないが、せめて推し屋が活躍しなくても良い程度の鉄道システムは作りたいものである。個人、企業、国が力を合わせて取り組むべき課題だろう。

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退職者は金のなる樹だけで良いのか

2007年04月16日 | 金融

金融機関にとって退職者・高齢者は「金のなる樹」だという主旨の記事がエコノミスト誌に出ていた。原題はFrom cheque books to checking pulses、つまり「小切手帳から脈拍まで銀行が面倒見ます」という話だ。ただし誰の面倒でも見てくれる訳ではない。銀行に面倒を見てもらうには、一定額の運用資産が必要だ。無論日本でも退職者の資金を取り込むことに金融機関は熱心だ。だがここまでのサービスは提供していない。色々な面で参考になる話なので記事の概要を紹介しよう。

  • 2006年に米国の77百万人のベビーブーマーの第一陣が60歳を越える。専門家によると65歳の夫婦のうち一人は90歳まで生きる勘定になる。
  • しかし政府の財源は制約され、企業の確定給付年金廃止は増え続けている。年を取ったベビーブーマー達はより多くの長生きリスクを背負っている。ワコビア銀行の退職者グループのボス・ロバート レイド氏は「我々はこれをyo-yo環境と呼ぶ」と言う。

Yo-yo環境とはYou're on your own直訳するとあなたはあなた自身の上にあるということ。米国では貯蓄は少なくヘルスケアのコストは高い。年を取るということは寒々として暗いということだ。

  • しかし銀行にとってこの不安定さ・危険Insecurityは巨大なチャンスだ。コンサルタント会社・マッキンゼーによると米国では退職後5年から10年経過した人々が個人金融資産の約三分の一を保有するという。HSBCは全世界で55歳以上の人が63兆ドルつまり地球上の約7割の富を保有すると言う。
  • しかし「高齢者の信頼されるアドヴァイザー」という役割は大銀行の自ずから定まった役割ではない。
  • 大手銀行例えばウエルス・ファーゴでは「高齢者サービスグループ」というグループを作っているが、その部門の典型的な顧客は投資資産100万ドル以上を持つ60歳以上の人である。手数料は管理資産の2%で、顧客は金融面のサービスだけでなく、看護施設の選択から薬の受取り、眼が悪くなった時には運転手の紹介や葬儀のアレンジといった様々なサービスを受ける。

日本の銀行がこの様なサービスを本体で提供することは、銀行法の制約のため無理である。米国の銀行がどの様なアレンジメントでこの種のサービスを提供する仕組みを作っているかは今分からない。今後の研究課題だ。

  • シティグループは異なったアプローチを取る。シティは富裕顧客のため、17の地方のプランニング・センターを建設している。対象は退職時期が近い投資可能資産5百万ドル以上の富裕層だ。
  • もう少し運用資産が少ない層を対象にした仕組みの方が日本の金融機関には参考になるだろう。例えばワコビア銀行の場合25万ドル以上の預金を持つ顧客に対してフリーで退職相談を行なうプログラムを開発している。
  • また金融商品の販売方法を見直している銀行もある。HSBCは自行の退職者を再雇用して金融商品の販売を行なっているが、これは同年齢層の顧客に良い印象を与えることを目的としている。

この辺りは日本の金融機関も同様だろう。日本では昨年から雇用延長法が実施され、60歳到達者の嘱託再雇用が増えている。金融機関でも再雇用者が同年代の顧客に金融商品を販売する傾向が増えている。私はこの話を聞く度に中国の三国時代の英雄曹操の息子曹植(そうち)の詩を思い出す。「豆を煮るに豆柄をもってす」というものだ。

  • 売れている金融商品は個人年金だで昨年の販売額は2,360億ドルだった。これは10年前の倍以上の水準に達している。また元本保証商品の人気も高まっている。

元本保証商品、原文ではPrincipal-protected notesで、このnoteというのは契約証書という意味。日本では元本保証型信託などがこれに該当する。元本保証を行なう代わりに配当に上限を設定することが多い。私はこの様な仕組み商品は「アレンジャーの抜きが多い」ので推奨しないが、金融教育が進んでいると思っていた米国でも良く売れると聞いて少し呆れている。

エコノミスト誌はこの後、最大の可能性を秘めているのはリバースモーゲージ市場だと言う。マッキンゼーによると退職者と間もなく退職するものの8割は自宅保有者で3兆ドルというuntapped nome equityの上に座っているという。untapped nome equityというのは、自宅の市場価値と住宅ローン等負債の差である。この価値はリバースモーゲージを使ってキャッシュ化される可能性があるというのだ。

以上のような可能性を秘めた退職者市場だが、エコノミスト誌は金融商品の販売で訴訟等の係争案件が増えていることに警鐘を鳴らしている。米国では証券業協会が個人年金販売に関して過去6年間で358件の強制執行を行なっている。

エコノミスト誌は「仕組みが複雑な金融商品や、手数料がかかり料金体系が複雑な金融商品を販売する時には特に高齢者が理解しているかどうかを確認することが必要」という。

以上が記事の主旨だ。金融機関に相手されるには、そこそこの資産を金融機関に委ねないといけないということだが、下手に金融機関の勧めるままになっていると不要な商品を買わされる危険も高いということだ。

ところでこれから先は私の意見なのだが、金融機関に相手にされる程の資産がない人はどうすれば良いのか?ということを考えてみた。その方法は私は「善意・ボランティアの貯蓄」ではないか?と考えている。

つまりある人が慈善活動で高齢者のお世話をしたとする。そうするとそのサービス内容がポイントの様な形で公的機関つまり市町村等に記録される。そしてそのサービス提供が逆にサービスが必要となった時に、そのポイントを使ってサービスを受けるというものだ。

明治のキリスト教伝道者・内村鑑三は人生の目標として「まず事業を残せ、そしてそれが出来ないのであれば金を残せ、そしてそれも出来ないなら爽やかな生き方を残せ」と言った。

金融機関は金持ちしか相手にしないが、我々はボランティア活動等爽やかな生き方も一種の社会的貯金として、老後に引き出せる仕組みを考えないと超高齢者社会を乗り越えられないかもしれないというのが私の問題意識である。もっともこの様な見返りを期待した行為が純粋なボランティアなのかという批判はあるだろうが、プラクティカルにはこの様なボランティアと蓄積市場とかスワップ市場を創出しないと活力ある超高齢者社会を作ることはできないかもしれない。

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残雪の赤城山

2007年04月16日 | 

4月15日日曜日赤城山に登った。8時前の新幹線で高崎に行き、レンタカーを借りて赤城道路を走り約1時間で黒檜山登山口に着く。路肩が少し広くなっていて5,6台の駐車は可能だ。ここからミズナラの中急な坂をほぼ一直線に標高差450mを登る。道は大体北斜面側についているが、尾根に出ると南側はスッパリと切れ落ちていて中々高度感がある。登山道には途中から残雪が出てきて楽しくなった。

10時20分に登り始めて頂上に着いたのが11時50分、1時間半の登山だった。春の薄曇の中、武尊山(ほたかやま)、奥白根山、谷川岳などが見えた。

降りの雪道はズルズル滑るので皆少し難渋している。

Gezanyuki

急な降りだが楽しみは清々しい風と眼下に広がる大沼の景色だ。

Gezannuma

大沼の向こうには地蔵岳(1673m)がこじんまりと控えている(写真の山)。昔この山にはワイフとハイキングで登ったことがあり、これをもって赤城山登山としていたがやはり主峰の黒檜山(1827m)の方が良い。

Jizoudake

約1時間で下山を終え赤城神社にお参りして帰りに向かった。

Akagijinsja

帰り道に「忠治館」というところで露天風呂に入り汗を流す。入浴料は500円で滝を見ることが出来る露天風呂と中々良いのだが、湯の質はあまり温泉ぽっくなかった。ぬめりやツルツル感がないのである。

帰り千本桜を見ようと思ったこちらは花見客の車が延々とつながり、いつたどり着けるやら分からないので早々に断念して高崎に戻った。

中々「赤城登山と千本桜」という欲張った計画は成り立たないものである。

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