金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

新聞はどうなるのだろうか?

2009年08月18日 | 社会・経済

「日本の新聞はどうなるのだろうか?」と考える時がある。これは一般的な感想ではなく、新聞社から輪転機のファイナンス案件が来る時の職業的判断にかかわるものだ。「団塊の世代の退職や人口減少」「インターネット上の無料コンテンツの拡大」「海外における新聞社の破産」・・・などを見ると、日本でいつまで紙ベースの新聞が続くのあろうか?と疑問を感じる時がある。

海外のメジャーな新聞はオンラインベースの購読が主流になり、しかも広告収入で利益が出るようになったので購読料金(Pay wall)を無料化する動きが相次いだ。例えばニューヨーク・タイムズは2007年に購読料金を廃止している(正確にいうと1980年以降の記事について)。

ところが今海外の新聞では逆の動きが出始めている。広告収入が不況で激減しているからだ。ニューヨーク・タイムズはThe Paper That Doesn’t Want to Be Freeという記事の中で、購読料金無料化の流れの中で購読料金を取り続けたファイナンシャル・タイムズのCEOの言葉を紹介しながら、潮流の変化を報じている。FTのCEO・ Ridding 氏は「世界的な不景気が続く中、広告収入だけでオンライン・ビジネス・モデルを維持することはできない。質の高いジャーナリズムは有料で購読されるべきだ

Newsコーポレーションを率いるマードック会長は今月、米英豪の総てのオンライン・ニュースについて課金制を考えると発表している(傘下のウオール・ストリート・ジャーナルは従来から購読料金を取っている)。またニューヨーク・タイムズも詳細は未定ながら購読料金の復活を検討している。ファイナンシャル・タイムズは一般的な購読料金(月単位)の他、検索エンジンからスポットで記事にアクセスする人に僅かな料金で記事を公開するサービスも検討中だ。

私見だが新聞のオンライン購読の有料化が進むと、読者は購読料金を抑えるため「読む新聞を絞り込む」のではないだろうか?つまり新聞の質の高さが競われるのである。

このような海外の新聞業界の動きを見ていると再び「日本の新聞はどうなるのだろうか?」と考えざるをえない。日本語という壁に守られて、イノベーションもジャーナリズムとしての質の向上も競われないまま、しかし、確実に地盤沈下する・・・といっては言い過ぎだろうか?

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民主党政権は経済に短期ポジティブ、中期ネガティブ

2009年08月17日 | 社会・経済

ファイナンシャル・タイムズは「民主党の政策は経済成長に短期的にポジティブ、中期的にネガティブ、そして恐らく長期的にはポジティブ」というクレディスイスの白川浩道エコノミストの見解を紹介していた。

民主党の少子化対策は、中学生までの児童を持つ家庭に月2.6万円の育児手当を支給するというもので、総額5.5兆円の予算になるという。民主党はこの資金を増税ではなく、政府の無駄な支出をカットすることで捻出すると宣言している。UBSのエコノミストは「もし民主党が、支出削減だけで財源を捻出することが出来なければ、数兆円の国債を発行して、資金を手当てするだろう。これは経済的な問題というよりも政治的な問題である」と述べている。

エコノミスト達は民主党の政策により、財政状況が一層悪化しても、それが直ちに国債利回りの急上昇や円に対する信任危機には結びつかないと見ている。

白川エコノミストによると「民主党の政策は、短期的には支出を増やすので経済成長にプラスに働く。しかし製造業派遣の禁止や地球温暖化対策で従来より厳しいスタンスを取るので、生産性が向上せず、中期的にはネガティブ。ただし出生率の上昇が長期的には経済成長を押し上げるので恐らくプラス」ということだ。

ところでFTは別の記事で「アイスランドに『経済危機ベビーブーム』が起きた」と報じていた。何人かのコメンテーターによると「昨年の金融危機で厳しいリセッションに陥ったアイスランドで、人々は愛とセックスに慰めを求めた結果、出生率が上昇した」と述べている。なおこの説には反対の人もいて「危機がベビーブームをもたらしたという統計的有意性はない」と述べていた。

ただ一つの仮説として「景気後退で夫婦に家庭で過ごす時間が増え、それが出生率向上につながった」という説は注目しておいて良いような気がする。以前にブログで述べたが「出生率の向上には育児手当の支給だけではなく、夫婦が共有する時間や母親が安心して子育てできる環境作りが重要」なのである。この説が正しいかどうかは民主党が政権を取った後、児童手当で出生率が上昇するかどうか?によって検証されるだろう。

☆    ☆    ☆     ☆

出生率の増加と経済成長については、私は就学児童が増えると一時的に経済成長は鈍化すると考えている。その理由は教育への投資が増え、生産財への投資が減るからである。このことは日本が少子化策を取って高度経済成長を遂げたことの逆コースだと考えると分かりやすい。経済成長が起きるのはその子供達が就業する時である。出生率の向上はかなり長期にわたる経済成長の押し下げ要因であると私は見ている。私は出生率の向上に賛成だが、このような展望は持っておくべきだと考えている。

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怠惰な夏の一日

2009年08月16日 | うんちく・小ネタ

二週続けて泊りがけで山に行っていたので、今週末は家でゴロゴロして過ごした。今日日曜日(16日)ワイフと田無駅前までランチに中華料理を食べに出かけたが、お目当ての店はお盆でお休み。しかたなくチェーン店風の安いラーメン屋で私は冷麺、ワイフは暖かい中華そばを食べた。二人で千円と安いが余り美味くない。周りで食事をしている人も食事を楽しむ風ではなく、腹が減ったので食べているという感じ。

(これじゃー家で何か食べた方がよかったなぁ)と反省しながら、近くのスポーツクラブで軽く走る。しかし冷麺がもたれた感じで調子がでないので家に帰って、寝転がって川上弘美のエッセー「ゆっくりさよならをとなえる」を読んだ。こんな日は川上さんのふゎーとしたエッセーが気分にあう。

その中の「多摩川」に「今年の夏はそういえば川にも海にも行かなかった。すでに暦の上では秋になっている。水辺に行きたい。思いつくと居ても立ってもいられなくなった。その足で電車に乗り、多摩川のほとりの駅に向かった」という文章があった。

「そういえば今年は川(沢)にいっていないなぁ。山も天気が悪くて夏山らしくなかったし」と思いながら、私は本を置き空を眺めた。

Akizoara

立秋を過ぎた空には秋の雲が広がっていた。私は多摩川のほとりに向かうかわりに、ビールを飲みながら女子ゴルフをテレビ観戦した。怠惰な時間がゆっくり流れる晩夏の休日だった。たまにはこんな一日も良いものである。

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日本も自転車シェアリングを真剣に考えるべき

2009年08月14日 | 社会・経済

マンションなどの住人を対象に乗用車を共同利用するカーシェアリングは日本でも話題になっている。カーシェアリングの自転車版・自転車シェアリングもJR西日本などが実施している。また自治体がレンタルサイクルを行っているところもある(私も一度台東区のレンタルサイクルを借りようと思ったことがあるが、その時は総ての自転車が貸し出されていた。)

しかしクリーンエネルギー政策の観点から、自治体が都市交通システムの一環として自転車シェアリングを推進するというイニシアチブは取られていない。

ニューヨーク・タイムズに記事が出ていたが、自転車シェアリング・システム(名前はBIXI)で世界の先端を行くカナダのモントリオール市が、同システムをボストンとロンドンに輸出するということだ。

モントリオールのBIXIシステムは、3000台の自転車と300台の駐輪機で構成される。自転車を短期的に利用する人は、自動化された駐輪機から自転車を借りて乗り、目的地の駐輪機で自転車を返却するというものだ。ユニークなのは、駐輪機がソーラーシステムで稼動するため移動・撤去が簡単なことだ。冬の寒さが厳しいモントリオールでは、自転車シェアリング・システムは冬はお休みになり、駐輪機は一時的に撤去される。

モントリオール市は自転車シェアリング・システムを「経済的で環境に優しく、利用者の健康促進に役立つ公共交通システム」と位置付けている。

私はこのようなシステムを日本でも採用するべきだと考えているが、最大のネックは日本における自転車道路が余りにも未整備ということだ。

モントリオール市は従来から「自転車に優しい街作り」を進めていて、4タイプの自転車道路があるhttp://www.treehugger.com/files/2009/07/montreal-bike-lane-system.php。「レーン・ワン」は分離帯で仕切られた「自転車専用道路」で安全に高速で自転車を走らせることができる。「レーン・ツー」は取り外し可能な標識柱で仕切られた自転車レーンで、冬は標識柱が取り払われ専用レーンはなくなる。「レーン・スリー」は路面に自転車通行帯と表示された道路で、この表示の上は車は走らない。「レーン・フォー」は自転車通行の表示はあるが、車も走るので「極めて恐ろしいだろう」と説明されている。

日本の大部分の自転車が通行する道路はこの「極めて恐ろしい」道路なのである。

道路が狭い日本でモントリオールのように(あるいは欧州のように)、分離帯で仕切られた「自転車専用道路」を普及させることは困難だ。とはいえ長期的に見るとエネルギー問題や環境問題に対処するために、都市交通システムに自転車を取り込んでいくことは必要なことだろう。そこでできることから始める必要がある。まず最初に取り組むべきことは「都市部における電柱の撤去・電線の地下埋設」だ。次に道路拡幅時における「自転車専用レーン」の確保である。

高速道路の通行料金をタダにするよりも、高速道路の料金を利用して都市部の自転車道路を整備し、都市交通百年の計を定めるというような政策提言があっても良いと思うのだが、票にならないせいか、日本でこのような主張をする政治家がいないことを私は残念に思っている。自転車は高齢者にもフレンドリーな乗り物なので、安心して自転車に乗れる道路環境が整うと、老人福祉や健康促進・医療費削減の観点からも効果的だと思うのだが。

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少子化対策、金よりも女性に優しい社会作りを

2009年08月12日 | 社会・経済

今度の総選挙では年金問題などと並んで、少子化対策が各党のマニフェストの目玉になっている。民主党は「所得にかかわらず子供手当て26,00円」自民党は「3歳から5歳までの幼児教育の無償化」などだ。支給対象や支給総額は異なるが、これらの政策は子育てをする家計に経済的援助を与え、出生率を高めようとするものだ。

しかしこのような経済支援よりも「夫の長時間勤務を減らし、夫婦が家庭で満足して過ごす時間を増やすことができる」ような政策を取る方が、少子化対策として有効だという主張がある。私は最近ニッセイ基礎研究所の天野研究員の「少子化政策マニフェスト、経済支援のその前に。」http://www.nli-research.co.jp/report/researchers_eye/2009/eye090805.htmlというレポートをインターネットで読んだが、このような主張の論拠が簡潔に述べられている。

ポイントを紹介すると以下のとおりだ。

最も注目される研究成果として、2人目までの妻の出産意欲には「妻の夫婦関係満足度」が大きく影響し、「妻の夫婦関係満足度」には夫婦の「共有主要生活活動数」が最重要である、というものがある。「共有主要生活活動」とは、休日の「くつろぎ」「家事・育児」「趣味・娯楽・スポーツ」、平日の「食事」「くつろぎ」をともに行うことを指す。

つまり夫の長時間労働や休日勤務を減らし、妻と過ごす時間を増やすことが一番の少子化対策であるということになる。

ところで少子化は日本だけが抱える問題ではない。多くの先進国に共通の悩みなのだ。だが日本とカナダを除く先進国では出生率の上昇が起こり始めている。最近エコノミスト誌にThe best of all possible worlds?というタイトルで、先進国の出生率改善に関する記事が出ていた。

記事はペンシルバニア大学のMyrskyla教授がネイチャー誌に発表した論文のポイントを紹介している。同教授は1975年から2005年にかけて、「合計特殊出生率と人間発達指数」の相関関係を調べ、両者が逆相関関係にあることを明らかにしている(そして最近のこの傾向が逆転~つまり日本・カナダ以外の先進国では人間発達指数が高くても出生率が序章し始めている)。「人間発達指数」というのは、国連が「どれだけ人間らしい生活をおくることができるか?」を指数化したもので、「出生時平均余命」「初・中・高等学校の合計就学率」「一人当たりGDP(ドル・購買力平価ベース)」で測定される。ゼロが最低で最高は1だ。因みに2005年度の日本の指数は0.953で世界第8位である。

一般に生物は環境が良くなると、子孫を増やすために繁殖率を高める。20世紀最大級の英国の生物学者リチャード・ドーキンスは「生物は遺伝子の乗り物である」という至言で、生物の自己増殖本能の強さを表現している。ところが人間の繁殖パターンは生物一般のパターンの逆だ。何故このようなことが起きるのだろうか?

私はこの問題を自己保存本能と自己増殖本能の観点から解釈してみようと思っている。

医療や食糧事情・衛生環境が悪い社会では、人は多産により子孫を維持しようとする(生物に共通する繁殖パターンである)。ところが環境が改善し、幼児死亡率が低下すると人は少ない子供を大事に育てることで子孫の維持・繁栄を図るようになる。これは一般的な傾向だが、これに加えて戦後日本では「少子化政策」を取ることで、教育や社会インフラ(学校等)に要する費用を抑えて、浮いた資源を生産に再投資することで高度成長を達成した。日本の成功パターンを模倣した韓国・中国も同じ政策を取った結果、高度成長を達成した。そして日本と同じ少子高齢化問題を抱えている。

現在の日本で「出産意欲が低下している」ということは、子供を生む(あるいは増やす)と「自己保存」が危うくなると本能的に感じる人が増えていることを意味するのだろうと私は考えている。つまり「自己保存本能」が「自己増殖本能」を上回っている状態が続いている訳だ。生物界においても、異常気象などの極限状態ではこのようなことが起きるのだろうが、これは異常な状態である。

出生率が回復しつつある先進国では「女性に優しい従業員政策」が取られ始めている。つまり私流にいうと女性の「自己保存本能」を満たすことで、「自己増殖本能」を引き出そうとしている訳だ。

人間の「自己保存本能」というものは、単に「安全であれば良い」「衣食が足っていれば良い」というものではあるまい。マズローの欲望段階説によると人間には生理的欲求,安全の欲求,親和の欲求,自我の欲求,自己実現の欲求の5つの欲望がある。かなり高い段階の欲望が満たされて初めて人の自己保存本能は満たされ、自己増殖に向かうのではないだろうか?

もし私の仮説が正しいとすれば、女性の自己実現をサポートする政策こそ、少子化政策の本道であるということになる。

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