金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

富士山の世界遺産登録推薦、まだ外国の評価頼みですか?

2013年05月01日 | ニュース

新聞紙面のトップを「富士山が世界文化遺産登録を推薦された」というニュースが飾っている。このような「お目出度い」ニュースにケチをつけるつもりはないが、やや冷めた見方をすると「自国の良さの評価にまだ外国のお墨付きが必要ですか?」と私は感じている。

明治維新以降、浮世絵、仏像彫刻など海外の画家、美術収集家の評価により見直された日本古来の美術品は多い。

自然もまたしかりである。日本アルプスの名前はイギリス人宣教師にして登山家のウォルター・ウェストンによって名付けられ、世界に紹介された。ウェストンは富士山にも登っている。

どうも日本人は自国のものでも外国で評価を受けてから評価をしなおすという傾向があるようだ。近年注目を集めている伊藤若冲もアメリカ人ジョー・プライスの蒐集努力で脚光を浴びたようだ。

富士山が世界的に見て美しい山で日本の文化に深く根付いていることは良く分かるし、世界遺産に登録したい気持ちも良く分かる。世界遺産になれば観光客が増えるだろう、という地元の気持ちも分かる。

だが批判を承知でいえば「外部の眼」「外国の眼」を気にし過ぎであると私は思う。良いものは外国から国際機関から評価されようがされまいが良いのであり、その人にとって価値のあるものは誰が褒めても褒めなく良いものなのである。

外国に旅行すると人並みに名所旧跡を見ることがあるが、そこが世界遺産だから行く、という意識は私には余りない。また名所旧跡もそこが世界遺産だ、ということを金看板のように打ち出しているとも思われない。もっともこれは私の見落としの可能性も高いので声高にいうことではないが。

外国のある機関からお墨付きを貰おうが貰うまいが価値のあるものはある、と私は考えている。

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トルコの抑制の効いた発言を評価したい

2013年05月01日 | ニュース

4月26日のニューヨーク・タイムズに猪瀬東京都知事が「2020年のオリンピンク開催候補地トルコのイスタンブールの悪口を言った」という報道があり、やがて日本でも取り上げられた。その後恒例の「言った・言わない」発言、「そんなつもりで言ったんじゃない」発言、そして「お詫び発言」とお決まりコースを経て現在に至っている。

オリンピク招致ルール14条によると競争相手の悪口を言ってはいけないことはもちろん、Any comparison with other cities is strictly forbidden(他の都市とのいかなる比較も厳しく禁じられている)から、猪瀬知事の「二つの都市(競争相手のマドリッドとイスタンブール)には、インフラは未整備で、非常に洗練された施設はない」といった発言は招致ルールに違反していることは明白である。

本件について興味のある人はたとえば記事を書いたニューヨーク・タイムズの田渕記者のツイッターhttps://twitter.com/HirokoTabuchiを見るのも参考になるだろう。

さて本件について私のコメントは悪口を言われたトルコ側の対応である。

ニューヨーク・タイムズはイスタンブール2020年オリンピック招致委員会のコメントを伝えている。

Istanbul 2020 completely respects the I.O.C. guidelines on bidding and therefore it is not appropriate to comment further on this matter(イスタンブール委員会は招致競争に関するIOCガイドラインを完全に尊重しているので、本件についてさらにコメントすることは適切ではない)

つまり悪口の言い合いをトルコは避けたのである。IOCのポイントを稼ぐ戦術的な対応、といえばそれまでだが、私はこの時ある小説の一場面を思い出していた。それは塩野七生の「ロードス島攻防記」の最後の場面、つまり半年にわたってトルコとロードス島で戦ってきた聖ヨハネ騎士団が開城して島を去る場面である。

開城後、騎士団の幹部はトルコのスルタン・スレイマンの天幕を訪れる。「二十八歳になるトルコ帝国の専制君主は、背が高く堂々とした体格の男だった。・・・・(騎士団の)アントニオは、呆然としていた。幼時から聴かされていた野蛮なトルコ人という概念と、どうしても一致しなかったからである。・・・・スレイマンは、アラーの神と預言者マホメッドとメッカの聖石にかけて、条約のすべてを守ることを誓った。騎士たちは、この異教徒の宣誓を、キリスト教徒の騎士が誓うのを聴くのと同じ素直さで聴いていた。」

今から約500年前、キリスト教徒の騎士団が立てこもり、トルコ商船に攻撃をかけることに業を煮やしたトルコの専制君主は力攻めで騎士団を降伏に追い込んだ。しかし「騎士団は所持品や聖遺物を島外に持ち出す権利を有する」などの開城条件は完全に履行されたのである。

☆    ☆    ☆

このエピソードは500年も前にトルコには「異教徒相手とはいえ外交上の約束を誠実に履行する」騎士道(=武士道)があったことを如実に物語っている。「イスラム世界に共通のものはアラーしかなく、お互いに戦争ばかりしている階級社会だ。」(猪瀬知事)という類の発言は、オリンピック招致のためのレトリックだろうが、トルコにはフランスや英国にも劣らない騎士道精神があったことは知っておくべきだ、と私は思っている。

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消費者の回復、企業の足踏み、4月の米国

2013年05月01日 | 金融

昨日発表されたコンファレンス・ボードの4月の消費者信頼感指数は、市場予想の最高値を突き抜ける68.1ポイントと非常に高い数字だった。

消費者信頼感を牽引したのは、住宅市場の回復だ。2月の全米20都市のケース・シラー指数は前同月比9.3%上昇した。これは2006年以降で最大の上昇だ。ブルンバーグはshowing the recovery in residential real estate is buttressing theU.S. economy.と述べている。

「住宅用不動産市場の回復の成果が米国経済を支えている」という意味だ。余談になるけれどbuttressという言葉が「支える」という意味だとすぐ分かった人はかなり英語に詳しい人か山登りに詳しい人かのいずれかだろう。Buttressを辞書で引くと名詞として「控壁」という訳がでてくる。主壁に対して直角方向に突き出した補助的な壁のことだ。山好きな人であれば、日本第二の高峰・北岳の岩壁、北岳バットレスを思い出すだろう。そう、あの何本かの岩の支尾根がバットレス構造なのだ。

話を本題に戻すと消費者信頼感指数が非常に強い数字を示した反面、4月のシカゴMNI製造業景況指数は49ポイント(前月は52.4)と2009年9月以降で一番低い数字となった。

企業は給与課税の増加と連邦政府の支出削減で景気が減速するとみてブレーキペダルに足を乗せ始めているのだ。

強気な個人と慎重な企業の綱引きという構図は日本も同じだ。米国では住宅市場の回復が消費者信頼感をサポートし、日本では株高期待感が一部の消費者のサイフの紐を緩める。米国では既に株式を持つ富裕層は資産市場回復の恩恵をかなりうけた。今年はホームエクイティが個人資産の中核をなす中産階級が恩恵を受ける番、ということになると米国の景気回復は軌道に乗る。それがはっきりすると財政健全化の圧力を跳ね返して企業の景況感も上を向く。それは半年後位先の話だろうが。

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