FTによると英国のFCA Financial Conduct Authority(金融行動監査機構)は、年金基金等のトランジション・マネジメントを執行する投資銀行やカストディ銀行の査察を開始した。トランジション・マネジメントとは、年金基金などの機関投資家がポートフォリオ構成を大きく変える時、売買手数料やマーケット・インパクトをなどの執行コストを最小限に抑える一連の手法の組み合わせのことである。詳しくはトランジションマネージャー大手のステート・ストリート銀行がHPで説明しているからご覧ぐださい。http://www-uat.statestreet.co.jp/our_services_j/global_markets/transition_management.htm
多少説明を加えると、機関投資家がファンドマネージャーを変更する時、従来のAというポートフォリオから新しくBというポートフォリオに変わって行く。Aのポートフォリオで保有する有価証券を総て売却して現金化して新しいファンドマネージャーに現金を渡ししてBのポートフォリオを構成する有価証券を購入させると簡単に見えるが、幾つか問題がある。分かりやすいところでは、有価証券の売買について証券会社に支払う手数料が発生することだ。また大きな年金基金になると自分が保有する株を売却することで市場価格を下げてしまうリスクがある。さらに昨今のような急上昇相場では、売ったり買ったりに時間をかけていると、その間に株価がぶっ飛んでしまうリスクがある。
ということで「そんなリスクを極小化する手法がトランジション・マネジメントです」というセールスを投資銀行(証券会社)や年金資産を受託しているステート・ストリートのようなカストディ銀行が年金基金などにセールスをかけている訳だ。
FCAはこのサービスにメスを入れ始めた。なぜメスを入れ始めたか?というとトランジションマネージャーが年金基金から過大な利益を取っている可能性が高いと判断したからである。
トランジションマネジメントは基金にも利益をもたらすが、執行するマネージャーにも利益をもたらす。ただ通常マネージャーがどれ位儲かっているかは外からは分からない。FCAはそこをもっと透明にしなさい、と求めている。
トランジションマネジメントというのは正しく執行されれば「売り手よし(マネージャー)買い手よし(基金)世間よし(この場合は株式・債券市場)」という「三方よし」の手法なのだが、売り手が甘い汁を吸い過ぎている、というのがFCAの考えだ。金融取引は複雑になればなるほど、情報が非対称になり、売り手有利となる。だから監督機構が必要なのだ。昔の近江商人の様に「三方よし」を行動規範とする善人ばかりでないのが金融界である。