金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

【書評】医療にたかるな~丸投げからの脱却の手引き書

2013年05月15日 | 本と雑誌

読んで気持ちが良い本、というものがある。どういう本が該当するか?というと私は次のように考えている。

① 著者と自分の考え方が基本的に同じ方向を向いている。

② 論旨が明快で著者の言いたいことがストンと入ってくる。

③ 著者の提言が具体的でかつ前向きである。

「医療にたかるな」(村上智彦著 新潮新書)は、上記3つの条件を満たしているので、短時間でさっと読むことができかつ益するところが大きかった、と感じている。

著者は財政破綻した夕張市の医療再生に取り組んできた。この本は医療再生を妨げる「行政」「既得権益」そして時には「住民の依存体質」と戦ってきた一人の医師の医療のあり方を変えよう、という提言の本である。

だが私には著者の主張は医療の問題を超えて、今日の多くの日本人が知らず知らずの内に身につけてしまった「歪んだ権利意識」そのものを厳しく指弾している、と思われる。自助の精神を欠き、権利意識だけが肥満化した自立できない人々に覚醒を求める本といって良いだろう。

少し具体的に見てみよう。

著者は福祉研修でフィンランドに行った経験を踏まえて次のように述べる。

北欧の人たちを見ていて素晴らしいと思うのは、「負担なくして受益なし」という常識がきちんと根付いていることです。高齢化による社会保障費の増大が見込まれるとわかった時点で、当たり前のように増税の議論がはじまり実行に移されます。・・・・・・高齢者や障害者といえども、自分で出来ることは何でも自分でやるのが基本です。日本の介護施設のように、上げ膳据え膳で身の回りの世話を介護スタッフに丸投げすることは許されません。

著者はまた夕張市の財政破綻の原因を「たかり体質」に求める。

(炭鉱での)危険な作業の代償として、労働者たちは下にも置かぬ扱いを受け、家賃はもとより、光熱費、水道代といった公共サービス、はては映画館の入場券まで、すべて無料で提供されました。もちろん医療費もすべて無料です。・・・・この頃に、夕張の人たちは「なんでもかんでも会社が丸抱えで生活の面倒を診るのが当たり前」の生活に慣れてしまい、歪んだ権利意識を持つようになってしまったのです。

批判されているのは過剰医療を求める「モンスター・ペイシェント」だけではなく、粗大ゴミ回収が有料になっただけで騒ぎ出す一般市民全体である。

著者は、地域を守るのは、その地域に住む住民が自らの手でやるべきことだと思います、・・・それが出来ない地域は、潰れていくしかないと私は考えています、と喝破する。

☆   ☆   ☆

自立した生き方の第一歩は自分のことは自分ですることだ。そして多少余力があれば、助けを必要とする人に手を差し伸べよう。

著者の「たかりもの」への筆誅は厳しいが、言いたいことはこのようなことではないかと私は理解した。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

米国、景気回復で国も家計も赤字削減進む

2013年05月15日 | 金融

昨日(5月14日)超党派メンバーで構成される連邦議会予算事務局は、米国の財政赤字が予想を上回る速いペースで改善していると発表した。それによると米国の財政赤字はGDPの4%、6420億ドル。2012年の財政赤字は1兆1千億ドル(GDPの7%)だった。また3ヶ月前の予想に較べて、2,030億ドルも改善している。予算事務局は2014年度の財政赤字はGDPの3.4%、そしてその翌年は2.1%まで減少すると予想している。

財政赤字が改善している理由の一つは1,050億ドルの税収の拡大だ。これは景気回復によるところが大きい。また住宅市場の改善で、政府が出資するファニーメイとフレディマックから950億ドルの配当が入ってきたことも大きい。また既に予算事務局の予想に織り込み済みだったが、財政支出の強制削減も寄与している。

赤字削減ペースが予想より早いので、国債発行上限の引き上げ時期が今年の8月から10月または11月に伸びるだろうと予算事務局は予想している。

またニューヨーク連銀は、家計の債務負担削減が進んでいて、今年第1四半期1,100億ドルの債務が減少したと発表した。また90日を超える延滞ローンも6.3%から6%に減少した。

☆   ☆   ☆

米国の財政赤字削減が予想以上に速いペースで進んでいることは喜ばしいニュースだが、経済成長の停滞と財政緊縮策で苦しむ欧州諸国には羨ましい話だ。また財政赤字がGDPの10%前後で高止まりし、巨額の国債債務をかかえる日本にも示唆するところが大きい話だ。

テレビで笑福亭鶴瓶が「人は膝が痛いから太るのか太っているから膝が痛いのか?」という製薬メーカーのコマーシャルがあった。これをもじって「国は財政赤字があるから経済成長が鈍化するのか?経済成長が鈍化するから財政赤字が拡大するのか?」というロジックを考えてみた。

現在のアメリカの例で見る限り、財政赤字があるから経済成長が悪化するということはなく、強い経済成長は財政赤字を削減する、ということが言える。

経済成長が鈍化すると、税収が落ち、景気浮揚のための財政支出が拡大するので財政赤字が拡大する。問題はその次で、政府と国民が経済成長の回復を税収の伸びに結びつけ、財政健全化を目指す、という強い意志を持っているかどうかだろう。

まず体重を減らして、膝の痛みを緩和する。そして積極的に歩くことでさらに体重を減らし、筋肉質の体を作っていく、ということである。筋肉質の体(財政)があると、高齢化などの問題への対応力が高まるからである。はっきりしていることは、自助の精神なくして健康は手に入らないということである。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする