読んで気持ちが良い本、というものがある。どういう本が該当するか?というと私は次のように考えている。
① 著者と自分の考え方が基本的に同じ方向を向いている。
② 論旨が明快で著者の言いたいことがストンと入ってくる。
③ 著者の提言が具体的でかつ前向きである。
「医療にたかるな」(村上智彦著 新潮新書)は、上記3つの条件を満たしているので、短時間でさっと読むことができかつ益するところが大きかった、と感じている。
著者は財政破綻した夕張市の医療再生に取り組んできた。この本は医療再生を妨げる「行政」「既得権益」そして時には「住民の依存体質」と戦ってきた一人の医師の医療のあり方を変えよう、という提言の本である。
だが私には著者の主張は医療の問題を超えて、今日の多くの日本人が知らず知らずの内に身につけてしまった「歪んだ権利意識」そのものを厳しく指弾している、と思われる。自助の精神を欠き、権利意識だけが肥満化した自立できない人々に覚醒を求める本といって良いだろう。
少し具体的に見てみよう。
著者は福祉研修でフィンランドに行った経験を踏まえて次のように述べる。
北欧の人たちを見ていて素晴らしいと思うのは、「負担なくして受益なし」という常識がきちんと根付いていることです。高齢化による社会保障費の増大が見込まれるとわかった時点で、当たり前のように増税の議論がはじまり実行に移されます。・・・・・・高齢者や障害者といえども、自分で出来ることは何でも自分でやるのが基本です。日本の介護施設のように、上げ膳据え膳で身の回りの世話を介護スタッフに丸投げすることは許されません。
著者はまた夕張市の財政破綻の原因を「たかり体質」に求める。
(炭鉱での)危険な作業の代償として、労働者たちは下にも置かぬ扱いを受け、家賃はもとより、光熱費、水道代といった公共サービス、はては映画館の入場券まで、すべて無料で提供されました。もちろん医療費もすべて無料です。・・・・この頃に、夕張の人たちは「なんでもかんでも会社が丸抱えで生活の面倒を診るのが当たり前」の生活に慣れてしまい、歪んだ権利意識を持つようになってしまったのです。
批判されているのは過剰医療を求める「モンスター・ペイシェント」だけではなく、粗大ゴミ回収が有料になっただけで騒ぎ出す一般市民全体である。
著者は、地域を守るのは、その地域に住む住民が自らの手でやるべきことだと思います、・・・それが出来ない地域は、潰れていくしかないと私は考えています、と喝破する。
☆ ☆ ☆
自立した生き方の第一歩は自分のことは自分ですることだ。そして多少余力があれば、助けを必要とする人に手を差し伸べよう。
著者の「たかりもの」への筆誅は厳しいが、言いたいことはこのようなことではないかと私は理解した。