この前の三連休後半に八方尾根を歩いた。紅葉と主稜線に薄く残る新雪を楽しむ良い山旅だった。それにしても驚いたのは八方尾根の人出の多さだった。リフトの運転が終了する少し前の4時頃には最上部のリフトやロープウェイの乗り場に長蛇の列ができていたのは驚きだった。ハイカーの年齢層はバラエティに富んでいたが、子供連れの家族層や中高年のグループ旅行が目立った。
また下山して八方のホテルに泊まった夜は連休の最終日ながらホテルはほぼ満員。中高年の比較的大規模なグループ旅行が多かった(という私達も他から見れば中高年の登山グループ以外の何者でもないが)。あるオジサンに聞くと小学校の同窓会で全国から仲間が集まり、松本でレンタカーを借りて黒四ダムへ行くところだ、という話。
日本は元気な高齢者には大変暮らしやすい国だな、とあらためて感じた次第。
さて今朝ネットでCNBCを見ていると「高齢者にどこがすみやすい国か」という特集記事があった。元ネタを提供しているのはHelpAgeというNGOグループで、Global AgeWatch Indexという指数で各国の暮らしやすさを評価している。
評価項目は大分類すると「高齢者の収入(年金カバー率など)」「健康」「雇用と教育」「Enabling environment」の4つである。最後のEnabling environmentは適訳が見つからなかったが、「頼りにできる親戚や友人がいるか」「夜中でも自宅近くを安全に歩くことができるか」「公共交通手段へのアクセスはどうか」などが評価対象になっているので、「生活基盤環境」とここでは訳しておく。
さてこのGlobal AgeWatch Index(GAI)によると日本の評価点は83.1で世界91カ国の中で10番目。アジアではトップである。世界一はスウェーデンで点数は89.9。西欧諸国や北米が上位を占めて2位はノルウェー、3位はドイツと続く。アメリカは8位である。
日本、アメリカ、スウェーデンについて項目別の評点を比較してみると興味深いことが見えてくる。
日本は「高齢者の収入」という点では世界27位だが「健康」では世界5位。また「雇用と教育」では10位で「生活基盤環境」では19位にとどまった。
日本の「高齢者の収入」の得点が低い一つの理由は、HelpAgeによると「Social Pensionsがない」点である。Social Pensionsとは非拠出でも受け取ることができる税金を原資とした年金のことで社会保障年金と呼ばれる。日本の老齢基礎年金は保険料を納付していないと年金がもらえないからSocial Pensionsではない。
ちなみに米国は「高齢者の収入」という点では日本よりまだランクが低く36位であるが、「雇用と教育」では世界第2と点数を上げ総合世界8位となっている。
世界第1位のスウェーデンは「収入」8位、「健康」7位、「雇用と教育」5位、「生活基盤環境」5位と非常にバランス良く点数を稼いでいる。
GAIの評価項目は今後日本が更に高齢者にとって暮らしやすい国を目指すならばどこに力を入れるべきかを示唆していると思われる。
世界的にみて一番評価が低いのは「高齢者の収入」だが、これは改善が容易ではない。むしろ高齢化にともなって年金支給開始年齢の引き上げなど年金制度の質は悪化するだろう。
可能性があるすれば「雇用と教育」と「生活基盤環境」だが、ここでは総合ランクを引き下げている「生活基盤環境」について考えてみよう。これはもっと分かりやすい言葉でいうと「安全な暮らしを送る環境整備度合い」だろう。
この環境整備のためには、実は国や自治体あるいは家族や友人だけではなく、高齢者側も環境変化を認容せざるえない場合があると私は考えている。例えば高度な医療を提供する病院への交通アクセスを良くするため、住み慣れた家を離れ、高齢者の多い集合住宅に移るなどという環境適応が必要になる場合があるだろう。
日本が高齢者ととって世界で10番目位に暮らしやすい国だと評価されたことは、私は誇るべきことだと考えている。だがそこに満足することなく、国としての全体のバランス(国家予算をこれ以上高齢者のために使う余地は少なくなっている)を考えながら少しでも暮らしやすい国を作るには、Enabling Environmentとはどういうことなのかを国民が考えていく時期だと私は思っている。