今日の落語タイムは5代目古今亭志ん生「替り目」。昭和30年(1955)お正月のNHKライヴ音源です。
志ん生師匠を聞いていると「これぞ落語」という気がします。声といい、しゃべりっぷりといい、落語の楽しい部分がそのまま浸みこんでくる。能天気というか、天衣無縫というか、明るくて陽気な気分になれるんですよね。「もう、このままで何も問題なしっ!」と、すべてを肯定できる声であり、話し方なんです。
「替り目」は酔っ払いの亭主がおかみさんにレロレロと管を巻き、つまみのおでんを買いに行かせる。出かけた(と思った)とたんに独り言で、「実はいい女房なんだよねぇ」とノロケ始めたところが……。
ただ酒を飲みたいばかりに、かみさんに甘える困ったオヤジと、半分あきれながら、でも結構愛想よく相手をするおかみさん。どちらも可愛いんですよねえ。その可愛さが志ん生師匠そのものの可愛さに思えてくる。
師匠は噺への入り込み方が半端じゃないように思います。計算して演出しているようには、とても思えない。この噺では出てきませんが、地の語りがあると、そこまでも何だか噺の中の人物の興奮なり、怯えなりが乗り移っているように感じます。第三者の説明とは思えないのです。
作為を感じさせない笑いですが、これが永年の修行で身に付けた芸だとしたら……。
恐るべき落語家だったというべきでしょう。
〈小説推理〉8月号が発売になりました。担当のSFレビューで次の4作を取り上げています――
- 梶尾真治 『怨讐星域〈Ⅰ〉~〈Ⅲ〉』 (ハヤカワ文庫JA)
- オキシタケヒコ 『波の手紙が響くとき』 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)
- 田丸雅智 『家族スクランブル』 (小学館)
- 飯野文彦 『ゾンビ・アパート』 (河出書房新社)
『恩讐星域』は、梶尾さんなりの『火星年代記』のようなものなのかもしれません。なつかしくて、同時に、新鮮。とても気持ちよく読めました。