惑星ダルの日常(goo版)

(森下一仁の近況です。タイトルをはじめ、ほとんどの写真は交差法で立体視できます)

替り目

2015-06-29 21:35:58 | 演芸

 今日の落語タイムは5代目古今亭志ん生「替り目」。昭和30年(1955)お正月のNHKライヴ音源です。

 志ん生師匠を聞いていると「これぞ落語」という気がします。声といい、しゃべりっぷりといい、落語の楽しい部分がそのまま浸みこんでくる。能天気というか、天衣無縫というか、明るくて陽気な気分になれるんですよね。「もう、このままで何も問題なしっ!」と、すべてを肯定できる声であり、話し方なんです。

 「替り目」は酔っ払いの亭主がおかみさんにレロレロと管を巻き、つまみのおでんを買いに行かせる。出かけた(と思った)とたんに独り言で、「実はいい女房なんだよねぇ」とノロケ始めたところが……。
 ただ酒を飲みたいばかりに、かみさんに甘える困ったオヤジと、半分あきれながら、でも結構愛想よく相手をするおかみさん。どちらも可愛いんですよねえ。その可愛さが志ん生師匠そのものの可愛さに思えてくる。

 師匠は噺への入り込み方が半端じゃないように思います。計算して演出しているようには、とても思えない。この噺では出てきませんが、地の語りがあると、そこまでも何だか噺の中の人物の興奮なり、怯えなりが乗り移っているように感じます。第三者の説明とは思えないのです。
 作為を感じさせない笑いですが、これが永年の修行で身に付けた芸だとしたら……。
 恐るべき落語家だったというべきでしょう。

 〈小説推理〉8月号が発売になりました。担当のSFレビューで次の4作を取り上げています――

  • 梶尾真治 『怨讐星域〈Ⅰ〉~〈Ⅲ〉』 (ハヤカワ文庫JA)
  • オキシタケヒコ 『波の手紙が響くとき』 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)
  • 田丸雅智 『家族スクランブル』 (小学館)
  • 飯野文彦 『ゾンビ・アパート』 (河出書房新社)

 『恩讐星域』は、梶尾さんなりの『火星年代記』のようなものなのかもしれません。なつかしくて、同時に、新鮮。とても気持ちよく読めました。