金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

進む日本のM&A

2007年07月13日 | 社会・経済

今週のエコノミスト誌が日本のM&Aについて記事を書いている。その中に私の友人の名前が実名で出ていた。まあ、世界的な雑誌に実名で出ているのだから、断りなしに紹介しても良いだろう。レコフの丹羽正一執行役員である。実は彼とは一ヶ月程前に飲んでM&Aについてある点で認識が一致したので一層興味が深い。認識が一致したところは後で述べるとしてエコノミスト誌のポイントを紹介しよう。

  • 日本企業は典型的にはM&Aを嫌っている。会社は伝統的に商業的な機関であると同時に社会的な機関と考えられ、例え経済的に意味があっても売買の対象とは見做されなかった。しかしこれは変わってきている。
  • 過去10年の間にM&Aに関係した日本企業は急増し、昨年のディールボリュームは15兆円に達した。しかし日本のM&A活動は欧米に遅れている。日本のM&Aのディール金額はGDPの3%程度だが、欧米のそれは10%に達する。
  • M&Aの活動水準とディールの容易さは企業の再生という観点と経営陣に気を緩めると買収されるという脅しを与える点で意味がある。
  • 日本では1990年代後半に経済が下降局面に入ったことと企業の債務負担によりM&Aにドアが開かれた。

ここでエコノミスト誌はレコフの丹羽氏の話を紹介している。丹羽氏は「大きいけれど見過ごされている傾向は大企業の子会社の中のM&Aの数が伸びている」と言う。

  • 複合企業は関係にない業種に数百の子会社を持っているかもしれない。それらの子会社は一般的な定年年齢である60歳を過ぎた企業の忠実な幹部を後数年間留めておく伝統的な場所である。ソニーを例に取れば、化粧品やレストラン、保険といった部門を電子事業の他にも持っている。

さて余談だが、私の知り合いにソニーファイナンスの安藤会長と親しいアメリカ人がいる。安藤会長というのはソニー本体の社長を務めた人だが、そのアメリカ人は「企業のトップを務めた人物が、ソニーが大変な時期に関係会社でがんばっているのは立派だ」と言っていた。色々な見方できるものである。いやこれは多少ご面識のある安藤会長を云々する訳ではなく、日本の企業幹部の中に親会社の役員を降りた後も子会社でがんばり、何がしかの役に立とうという人がいることは事実で、そのような人によりコーポレートジャパンが支えられてきたことは事実なのだ。

エコノミスト誌の話を続けるとUBSのスティーブン・トーマス氏は「多くの企業グループ内のM&A活動は同一産業内の異なる子会社を統合することで構成されている。このように日本企業はより大きな企業リストラの一部分としてM&Aを使っている」という。

  • M&Aに対する欲求が高まるにつれ、かっては子会社を守るために使われた日本の安定株主モデルは、子会社を取り除くために使われるかもしれない。
  • 過去10年間世界的なM&Aブームはアメリカと欧州の企業を強化することを可能にしてきた。この間日本企業は金融面の問題をきれいにするため内部を見てきたので取り残され、自分達が世界市場で不利な立場にいることに気がついている。経済面の不調が日本のM&A活動をスタートさせた。経済が回復するにつれ、M&A活動は加速するだろう。

さてレコフの丹羽君と話が一致した点だが、「日本では人の問題がM&Aのネックになっている」という点だ。エコノミスト誌が指摘するように、大企業の子会社というのはOBの受け皿会社になっていた。そこで問題なのが、大物OBなのである。プライドだけ高くて、他の会社と一緒になることを受け入れない、しかも外部の企業でも受け入れられないといった人がM&Aのネックになっていた。しかし団塊の世代の退職期にさしかかりこのような煩い人たちが退職していったのである。これと少子化の流れがあいまってM&Aの潮流を加速しているというのが私の見解だ。

ところでこの前後輩と一杯飲んでいたら「高松城水攻めの清水宗治の例があるでしょ。会社の親玉というものは、M&Aで軍門に降る時は腹を切らんといけませんや」と気炎を上げていた。エコノミスト誌も日本ではSelling a firm may be seen as an admission of failure.と書いている。「企業を売ることは敗北を認めることだ」という訳だ。日本にはM&Aに対するこの様なハードルが高いかもしれない。

確かに米国では買収される企業の経営陣に多額の慰労金が支払われることが多くそれがM&Aを容易なものにしている。中世の西洋では敵の騎士を捕虜にしても殺すようなことはせず、高い身代金をとって釈放していた。しかし日本では高松城の清水宗治である。欧米と日本ではM&Aの土壌にかなり歴史的な違いがあるかもしれない。

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