金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

【書評】中国の不思議な資本主義

2007年07月15日 | 本と雑誌

中国の不思議な資本主義」(中公新書ラクレ 著者 東 一眞、780円)を読んだ。250頁程の本なので正味2,3時間で読み終えることができた。今中国の食材の安全性などが問題になっているが、問題の本質をとらえる上で読んでおいて良い本だ。

この本の良いところは、結論を早い段階で書いているところだ。その結論を紹介しよう。

  • 中国は、日本社会とは比べものにならないほど「親族や友人の相互扶助のネットワーク」が発達している社会である。一方で、社会全般を貫く社会規範が極端に貧弱な社会である。
  • 規範のない経済取引が、経済全体を機能不全に陥らせている。
  • 職業倫理に関しても働くことを自己目的化しておらず、短期的に儲けることを主眼としている傾向がつよい。
  • こうした結果、人的ネットワークを利用した不正な利益追求が横行するタイプの資本主義~著者は「ヘデラ型資本主義」と名付ける~が出現しつつある。

資本主義を「ネオアメリカ型」と「ライン型」(ドイツや一昔前の日本)に分けた場合中国は個人主義的色彩が濃い「ネオアメリカ型」に属すると判断する。ただし「ネオアメリカ型」でもアメリカは社会規範の強い国であるが、中国は「汚職や不正を内部に抱えた極めて質の低いネオアメリカ型資本主義」だと著者はいう。

汚職がはびこる世界では、人々は社会を、政府を信用しない」で「自分の身を守ることに専念する」「そうするとますます汚職がはびこるというスパイラル現象が起きる」という訳だ。

著者はこの「不信の構図」は歴史的な所産であると思われると言い、特に文化大革命の影響を大きいとする。「文化大革命は、言ってみれば中国全土を巻き込んだ内ゲバだった。それは人々の間の信頼関係を破壊させ、もともと希薄だった中国社会全体を貫く規範を一層希薄化したと思われる。」

この著者の視点に立つと、「賄賂を貰ってニセモノの薬を認可する」「デズニーランドのキャラクターを真似たテーマパークを作る」「公害を垂れ流しにする」「地方官吏が私腹を肥やすために農民の土地を強制収用する」等など中国が抱える様々な問題の原点が見えてくる。中国問題の理解を深める点でお奨めできる本だ。

ところで中国の汚職が世界的に見てどのレベルなのかということを別の資料で少し見てみよう。その資料というのは世銀が発表しているWorldwide Governance Indicatorという資料だ。これはインターネットで無料で閲覧できるもので、世界の国の汚職等の統制状況を六項目に分けてパーセンタイル順位で示している。パーセンタイル順位とは得点の低い順番にならべたもので、パーセンタイル60というと下から数えて60%のところにいるということだ。つまり100に近い程上位にいる。

汚職の統制Conrol of Corruptionについて見ると、中国は2006年度で37.9、因みに最高クラスはフィンランドで100.フィンランドは世界で最も汚職が少ない国なのだ。日本は90.3で米国の89.3よりわずかに良い。もっとも年度ごとにパーセンタイル値は変わっているから、日本や米国は同レベルだと考えて良い。インドは中国よりかなり高くて52.9、ロシアやインドネシアは中国より低くて23-24レベルだ。ということで世銀のデータによると中国の汚職の度合いは発展途上国の中では無茶苦茶に悪いということでもない様に見える。

しかし世銀のデータをもう少し見てみると、統治における中国の最大の問題が見える。それはVoice and Accountabilityのパーセンタイルが過去10年位5-10レベルと極めて低いことだ。Voice and Accoutabilityとは、参政権、表現や集会の自由度合いなどで測定されているので、中国ではこれらの権利が大幅に制限されている。因みに日本のパーセンタイルは75-79程度、米国は83-90程度、インドは58.2と発展途上国としてはかなり高い。ロシアも24と中国よりかなり上位だ。

中国は国民の数が桁外れて多いため、不正や汚職が同レベルの国と同じ比率で発生しても絶対数は多くなる。それだけマスコミを賑わす回数も多くなる訳だが、統制のレベルを客観的に見るためには世銀のデータなども頭に入れておくべきだろう。

一方中国の企業や地方政府の不正や社会規範の欠如がその経済力の大きさや地理的な近さから日本に重要な影響を持っていることは重たい事実だ。そのようなことを考える上でも本書は良い手がかりを与えてくれる。

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