ロイターの計算によると今週の月曜日に中国工商銀行が一時的にシティバンクを抜いて時価総額で世界一の銀行になったということだ。ファイナンシャルタイムズはこれが面白くなかったのか、結構揶揄した記事を書いている。
「大きいことは良いことだ・・・しかしこの言葉は戦慄を喚起させる。80年代後半に日本の株式市場の時価総額がウオールストリートの総額に近づき、80年代の終わりには資産総額で世界のトップ5の銀行は総て邦銀になった」「中国が記録更新の役割を担う時、このことを思い出さずにはいられない」
欧米人というのは日本人なんかよりはるかにプライドが高く執念深い。金融においてプライドが高いということは、ディシプリンdisciplineがしっかりし、それを守ることに誇りを感じていると言い替えても良いだろう。日本語で言えることを英語で言うのは趣味ではないがDisciplineという言葉は英語のニュアンスの方が良いので敢えて使う。Disciplineを名詞として訳すと「訓練」「修養」「規律」「秩序」になり、動詞とすると「規律を守らせる」という意味になる。
従って金融人・機関としてディシプリンがしっかりしているというと、金融秩序を守る修養・規律が出来ているという意味になるだろう。ところで日本ではこのディシプリンがしっかりしている人というのは余りいない。国際的な競争の場という大海の中で勝ち抜いて出世しているのではなく、社内政治という小川の中の小滝を攀じ登っているに過ぎないからだ。
欧米人が日本や中国の銀行を「大きいだけじゃいけない」という意味は、規模を追求するだけでなく「中身を充実させろ」「リスクに見合ったスプレッドを取れ」「ROEを意識しろ」などということを内包しているのである。
このような欧米人の規準から見ると、一時的とは言え工商銀行が時価総額で世界一になったことは面白くなさそうだ。
「工商銀行はマネジメントスキルというよりは、中国経済ブームに支えられた熱狂した上海株式市場のお陰で時価総額が世界一になった」「時価総額でシティと肩を並べたけれど、2006年の純利益では工商銀行はシティの3分の1だ」「工商銀行の予想株価収益率は25倍以上と世界の銀行セクターの平均15倍を越えているが、収益予想が裏切られると心変わりの早い中国人個人投資家の動きと相まって株価は下がり時価総額ランクも落ちる可能性が高い」
中国の銀行株は私にとってはイソップ物語の「酸っぱいブドウ」のようなところがある。私は昔中国の銀行のクレジットを見ていたことがあるので、中国の本土の銀行の株は買う気になれなかった(香港の銀行の株を買ったことはあるが)。ところがIPOをかけた中国の銀行株はドンドン値上がりした。こうなるともう「酸っぱいブドウ」である。
中国の銀行の株価収益率が世界標準に近づくまで「ブドウ」は食べない方が良いかもしれない。これも又ディシプリンの問題であろう。