今週エコノミスト誌は小泉前首相のカムバックを示唆する記事を書いている。タイトルはLonging for Lionheart 「勇猛果敢な人を熱望する」だ。記事の内容は後程紹介するとして、小泉前首相あるいは小泉のように果敢な一匹狼が首相として人気がある理由を考えてみよう。手がかりになるのはマキャベリの言葉だ。
マキャベリは「君主論」で次のように述べる(手元に「君主論」がないので余り正確ではないが)。「君主はなんの留保もなく一方の党派に味方しもう一方には敵対することを鮮明にすると尊敬される」
つまりリーダーは旗幟を鮮明にしなければならないということだ。この論法で行くと安倍首相は郵政民営化に反対して離党した議員の自民党復帰を認めた時点で尊敬を失ったということになる。
さてエコノミスト誌のポイントを紹介しよう。
- 来る参院選挙について選挙民は安倍首相は愛国主義教育を掲げ憲法改正を考えているが、彼らの関心事である仕事や福祉について接点がないと考えている。
原文はout of touch with their concerns. out of touch は別の言い方をするとnot in communicationつまり対話が出来ていないということだ。首相が国民の最大の懸念・関心事に無関心と思われては~私は安倍さんが無関心とは思わないが~選挙に勝てないだろう。リーダーにとって大切なことは「そうであるか」ではなく「そう思われる」ことである。
- 参院選挙で自公連合はほとんど確実に議席を失うだろうし、恐らく過半数も失うだろう。自民党が大きく敗北した場合は安倍首相の退陣と後継者選びが始まる。
- その場合の後継者は麻生氏が本命だが、71歳の福田康夫氏がつなぎで登場する可能性もある。いずれのシナリオにしろ政治的に不安定な状態が続き、12年間に10人の首相が交代した90年代の不安定な時代に逆戻りすると予測するアナリストもいる。
- 小泉チルドレンを含む自民党の党近代化論者は、自民党を分割する以外に政権を安定させ実用性のある政策を立案することはほとんど不可能と考えている。自民党の改革論者は党の古い保守派と袂を分かち、同じ考えを持つ民主党の仲間に加わるかもしれない。
党近代化論者の原文はmoderniserの訳、モダナイザーは一般には英国労働党のブレア前首相やブラウン現首相など改革派をさす。
- 小泉前首相の下で大臣になった無党派の代表格 猪口邦子議員はこの考え方に疑問を呈する。新しい党を作っても自民党の組織力には対抗できないし、そのことは小泉前首相が一番良く知っていると彼女は言う。市場経済と国際感覚をもった人が選挙後の自民党をリードし、民主党から離反者を取り込んでいくことが必要だろうと猪口氏は言う。
- 猪口氏は「早晩小泉氏の影響力が強くなってくる」という。もし彼女が正しいとすれば、変人だったのはライオンハートを持った小泉氏ではなく安倍首相だったということになる。
以上がエコノミスト誌の記事のポイントだ。小泉氏が再登場するかどうか予測するのは困難だが、国民不在の選挙を止めるためには「政策を同じくする集団」がマニフェストを掲げその可否を国民に問うという姿になることが望ましい。国民は実行性・実用性の乏しい政策のテンコ盛りを見るより、具体的で実行性のある政策を求めている。
「政治の目的はどんな状況でも国の維持にある」(マキャベリ)