温泉博士と言われている松田 忠徳氏には温泉関係の多くの著書があるが、私が氏の本を読むのはこの本が始めてである。新聞の書評を見て面白そうなので、直ぐにアマゾンで購入した。
「江戸の温泉学」 松田 忠徳著 新潮新書 1,200円 この内容でこの値段はお値打ちである。まず著者は相当多くの文献を跋渉して研究している。巻末に参考文献一覧があるがざっと数えて二百近くの文献があげられている。非常の手間がかかっている本だ。次に温泉にかける筆者の情熱が隅々に溢れている。最後に今まで私がいかに医学的に正しくない入浴をしていたかを反省させてくれる点で優れた健康の書である。このような良い本に出会うと、たまたま飛び込んだ見知らぬ飲み屋で安くて美味しいお酒や料理に出会ったような感激を覚える。
江戸時代の温泉学の大家香川修徳が述べている入浴方法を抜粋してみよう。
- 入浴するものは、必ず、自分の身の回りに湯をかけ、自分の座る座を暖め、ひしゃくで温泉を汲み取り、ゆっくり両肩にかけ・・湯槽の中に入る。
- 入浴回数は一日に2,3回を規準とする。体の弱い人は1,2回とするべきだが、強い人は3回から5回位に及んでも害はない。これを過ぎると疲労する。
- 入浴中は寒い風や外気の害をさけるべきである。
- 湯治治療中は生や冷たい肉食をしてはいけない。
- 入浴後に仮寝はいけない。
これに比べて私の実際の入浴方法はどうだろうか?私が温泉に入るのは登山の後、温泉宿に泊まって一晩ゆっくりする場合が一番多い。しかしその場合の入浴方法は香川修徳が教えるところとは正反対に近い。
まずシャワーで山の汗を落とし、荒っぽく体を洗ってドボンと湯船に入ることが多い。冬など小雪が舞う中、ヒイヒイ言いながら露天風呂に入ることもある。一番ひどかったのは一月の本沢温泉である。そこは北八ヶ岳の奥深く標高2千メートルのところで、日本で一番標高が高い露天風呂があった。露天風呂の周りは雪の壁、ぬるめのお湯は一度入ると中々出られない程だ。
温泉を上がると当然ビール、冷えた一杯程美味いものはない。ビールを飲んだ後夕食までの間仮眠することもしばしばある。という具合に私はほとんど江戸の温泉学が教える健康入浴法のさかさまをやっていた。
さて今後温泉にいく場合、香川修徳の入浴法を全部守れるだろうか?中々全部は難しいかもしれないが、体を冷やさないようにするといった基本的ことには留意しようと思い始めている。ビールは少な目に、後は暑いお酒でいこう。とは言っても酒の飲み過ぎも入湯の禁忌であるから程々にしなければならない。
この本は良い源泉のように中身が濃いので、もう一、二度読み返してみたい。著者がしばしば言うように源泉を水で割り、循環させるような温泉は健康促進の点からもっての外であるが、良い本を繰り返し読むと学ぶところが多く健康にも良さそうだ。