先週ブログへのアクセスが30万件を越えたと書いたら、経済学を勉強されている学生さんから、私のブログを参考にしているというありがたいコメントを頂いた。私の経済に関するブログでは、マスコミが伝える個々の経済事象の底を流れる水脈に触れたいと考えている。独自にその水脈を探る場合もあるし、エコノミスト達の意見の中にその水脈を求めることもある。
多少なりとも経済に関心のある読者にお伝えしたいことは、正しい予測や意見がいつも社会で受け入れられるという保証はないということだ。例えばニューヨーク大学のエコノミスト、ノウリエル・ロウビニ氏は2年以上前に住宅バブルが崩壊して、金融危機とリセッションが起きると述べたが彼の意見は些細なことを騒ぎ立てる奴として無視されていた。今ではロウビニ氏の支持者は増えているだろうが。
ニューヨーク・タイムズによるとそのロウビニ氏は最悪の事態はまだ先にあるという。同氏は銀行の不良債権償却は2兆ドルになるのではないか?と考えている。現在のところ金融機関は3千億ドル以上の償却を行った。多くの専門家は1兆ドルかそれ以上の償却が必要と考えているが、ロウビニ氏の考えはそれを大きく上回っている。
この数字の妥当性について私は即断する材料を持っていない。しかし米国の住宅市場はまだ底に達していないと考えている。その一つの根拠は住宅の賃料と価格の関係だ。ニューヨーク・タイムズによると、1985年から2002年までの間、住宅価格は年間賃料の14倍という水準であった。ところが2006年初期には住宅価格は賃料1年分の25倍に跳ね上がった。現在この倍率は20倍まで下がっているが、まだ歴史的に見ると高い水準にあるということだ。
この賃料と住宅価格の関係を個人的な経験で考えてみると、私は1990年前半(バブル崩壊期の前半)自宅を賃貸に回していたことがある。年間賃料が180万円で、当時の物件価格相場が5,6千万円だったから倍率は30倍位ということになる。もっとも法人向けの賃貸なので家賃が世間相場より低いなどという個別事情はあるが。
話がわき道にそれてしまったが、米国で住宅価格と賃料の関係が歴史的な平均値に回帰するとすれば、まだ住宅価格は下落すると考えてよいだろう。住宅価格の下落は金融機関にとって住宅ローンの更なる償却を求められるだけでなく、消費者の破産や信用劣化が進むとそれ以外の与信についても償却負担が増えることになる。アメリカ人の家計の借金は1984年には年収の60%だったが、今では120%に拡大している。今後銀行は個人向け与信を絞らざるを得ない。
物価高が続く中で個人向け信用供与が絞られると、消費者は消費を抑制せざるを得ない。これは景気を悪化させ、また住宅価格の下落につながるという負のスパイラルが続くことになる。
こう考えると当面悲観論者ロウビニ氏の支持者が増えてもおかしくはないだろう。