英米人の一つの特徴はモノゴトを実証的にそして統計的に考えるという点だろう。例えば「結婚が健康にどのように影響するのか?」という問題についてもかなり昔から統計的な研究が行われている。
少し前のニューヨーク・タイムズにIs marrige good for your health?というかなり長い記事が出ていた。記事は最初に1985年にイギリスの伝染病学者ウイリアム・ファーが行った研究を紹介している。
ファーは成人を「既婚者」「生涯独身」「配偶者と死別した人」の3つのグループに分けた。そしてそれぞれのグループについて年齢別の死亡率を分析した。その結果「配偶者に死別した人」→「生涯独身」→「既婚者」の順に死亡率(正確にいうと病気による死亡率)が高いことが分かった。
「結婚は健康な生活状態である」というのがファーの結論である。今朝の新聞には「日本人の平均寿命は前年と同じく83歳で世界最長。ただしサンマリノに並ばれた」という記事が出ていた。長寿の要因は色々あるだろうが、日本の今のお年寄り達が「安定した結婚生活」を送っていたこともその一つに上げても良いかもしれない(ただし私の直感に過ぎず学術的根拠はないが)。
150年前に較べて現在では男女の暮らし方も多様化している(例えば同棲)が、それでもなお色々な研究によって「平均的に見ると既婚者は独身者よりより健康で長く生きる」という事実が明らかになっている。
もしある国や社会の目標が「社会の構成員をより健康的で長生きさせる」ということであれば(因みに日本国憲法25条2項は「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と定めている)、婚姻率を高めるような政策を取ることが求められるだろう。そしてその方がトータルとして社会保障費を抑制することになるだろう。
話が少しわき道にそれたが、タイムズに出ていた「結婚と健康」に関する研究をもう少し紹介してみよう。
それは「結婚に伴うストレス」の話だ。昨年発表された研究によると、「独身の人は既婚者より健康面で劣るが、離婚した人よりは健康面で優れている」ということだ。
結婚生活と健康に関する研究で面白かったのはオハイオ州立大学のGlaser教授の研究だ。彼は免疫学的なアプローチで、「幸せな結婚生活を送っている女性」と「不幸せな結婚生活を送っている女性や前夫を引きずっている女性」を較べて、後者の免疫反応が弱いことを実証した。免疫反応が弱いつまり体の抵抗力が落ちているということは病気に罹り易いということである。
ところで不幸な結婚生活を続ける位なら離婚して再婚する方が健康に良いのではないか?という意見もありそうだが、研究が示唆するところでは「健康面」での効果は限られているようだ。つまり「健康面」に関する限り、夫婦間の衝突が決定的になることを避けて最初の結婚を大事にすることが一番・・・という結論になりそうだ。
決定的な衝突を避ける方法についてタイムズはある研究者の言葉を紹介している。
「仲の良い夫婦でも衝突は避けられない。解決は喧嘩をやめることではない。より思慮深く喧嘩することである。結婚の難しさは普遍的なものだ。争いが必要以上に不快なものになることを避ける努力をするだけである」
英米人が結婚と健康の問題をこれだけ色々と分析してきた理由は、カップルというものが生活の中核(日本では少し前まで「家」の方が中核だった)でシェル(殻、骨組み)をなしていたということによるのだろう。
もっとも彼等がその研究成果を十分生かしているかどうかというと議論のあるところだろうが。