新書本サイズで1100円の本というのは少し高い。本のサイズまで気にせず、アマゾンで頼んだところすぐ来たこの本「電子書籍の衝撃」(佐々木 俊尚著 ディスカヴァー・トゥエンタィワン発行)は、お値打ちな本だと思う。お値打ちな本とは何か?私の勝ってな定義を述べると「買って得したなぁ」と思う本であり「暫く手元に置いておこう」と思う本である。旬の話題を取り上げた本の中には一読してハイさようならという本も多いが、この本は暫く手元に置いて読み直すことを期待する本だ。
「電子書籍の衝撃」はアマゾンのキンドルやアップルのiPadが書籍業界にどのような影響を与えるか論じた本だ。このようなはやりの本は何冊か読んだ。だが一冊選ぶならば僕はこの「電子書籍の衝撃」を推薦したい。何故かというと著者の出版や小売業全般に関する深い洞察や見識が丁寧な取材の背後にあり、読むものを納得させる。
著者は音楽の世界でiPodが席巻したした経緯に詳しく、そのことをベースの電子書籍の将来を予測する。その中で既存出版社はズタズタに切られて多少の溜飲を下げる人もいるだろう。
だが僕が評価したいのは本の世界に幾つかの新しい切り口を持ち込んだ点だ。例えば「ケータイ小説は、コンテンツでなくて、コンテキスト」という一節がある。コンテキスト(文脈)というのはちょっとなじみのない概念なんだけれど「同じ空間を共有する感覚」というと分かりやすいかも知れない。これからの消費の世界でコンテキストが重要なのは本に限ったことではないだろう。
「電子書籍の衝撃」は本が電子端末を通じて読まれるという現象面の考察だけではなく、その背景にある出版文化や経済的な枠組みを的確に伝えている点で中々の本だと思う。一読してハイさよならでない何かがある本だと僕は思っている。