この前「少なくとも二つは良いデフレもあると思うが・・」というエントリーで、「地価の下落」と「爛熟的な記号消費の終焉」は正常への回帰で良いデフレだと論じたところ二つご意見を頂戴しました。そこでちょっと私見を補足したいと思います。
まず「一般に資産価格は物価指数の対象とはならず間接的の影響を与える」という点について。
Skippeさんのおっしゃるとおり一般に資産価格は物価指数の対象にはなりません。ただ不動産については「帰属家賃」という考え方から居住用不動産の価格は物価に反映されます。物価指数に与える影響は間接的な効果が高いでしょう。
なお平成10年から19年の全国の土地価格と物価指数の相関関係を調べた実証的な研究によると全国の住宅地では0.86、商業地では0.94という極めて高い相関関係がありました。ただ物価と地価の因果関係までは私にはよく分かりません。つまり物価が下がるから地価が下がるのか?地価が下がるから物価が下がるのか?あるいは物価の下落も地価の下落も景気の関数で両者の間に特別な関係はないのかなどについては、専門家のご意見を聞きたいですね。
「需給から考えると日本の土地が諸外国より高くなるのは無理もないでしょう」という点について。
私も日本の土地が諸外国より高くなることはある程度しかたがないと思っています。しかしバブルの頃「東京の地価で米国全体が買える」程地価が上昇しましたが、これは異常です。なぜ異常かというと、土地の収益性(収益還元価格)というものが全く無視されたからです。
日本は人口密度が高いことは事実ですが、土地の有効利用の面でも非効率です。例えば東京都内特に山手線内側などはもっと高層マンション化を進めると「事実上土地の供給をふやすことになる」と思います。
「記号消費」の影響をどれ位見るか?ということは記号消費をどのように定義するか?に関わる話だと思います。私は前のエントリーではかなり大雑把な話として使っています。たとえば記号消費をラグジュアリーな商品に限るとバブル崩壊時に2兆円以上あった市場が1兆円程度に縮小した、つまり1兆円程度の市場が消えたという話です。しかし記号消費つまり「ブーム的な消費」を例えば高級乗用車、百貨店での買い物などに広げるとかなり大きな影響があるとも考えることができます。
何が正常な消費かどうかは確かにアプリオリに決定されるものではありません。しかし米国の消費者が住宅価格の右肩上がりを信じて、借金を重ねて消費をエンジョイしたことが異常なように、日本の消費者が「モノで総てを語った時代」も私は異常だったと考えています。これは経済学の話より社会学的な観点かもしれませんが・・・
私はデフレが良いと言っているのではなく、モノや土地の値段が下落する中には「正常な状態への回帰」があることを冷静に見る必要があるのではないかと考えているのです。
日本のそもそものデフレの一番大きな要因は、中国等発展途上国の工業化が進む中で、大量の安い商品が流れ込むことと、輸出の相対的な停滞(世界の貿易シェアの低下でわかる)で日本のGDPが延びていない(名目GDPは縮小している)ことです。
この問題を解消するには、伝統的な金融政策や総花的なバラマキ政策(例えば定額給付金だとかエコ家電ポイントなど)だけでは駄目なのです。それは対症療法に過ぎない。一時的には景気は良くなるかもしれないが、最終的には国の借金が増え続けます。
より根本的な政策は、国際競争力のある分野に資源を投入することを後押ししたり、企業の活力を活性化する政策なのです。企業の活力を高めることで雇用を増やし、給料を増やしていく。遠回りに見えてそれしか方法はありません。このように考える時、土地の値段が下がっていることはプラスなのではないでしょうか?
デフレが全般的に好ましいものではないということにおいて私の意見は読者の多くの方と共通するものだと思います。しかしデフレの中身を具体的に見ることでよ効果的な対策が立てられるのだと感じている次第なのです。