5月21日金曜日、海外の株式市場の急落を引き継いで日経平均も250円程下げて荒れた一週間が終わった。ユーロ市場の混乱を加速させたのは、今秋ドイツが発表したユーロ圏の国債と幾つかの金融機関のネイキッド・ショートセリングの規制だ。ショートセリングは空売りのことだが、通常の空売りは空売りする玉を借りてから空売りするが、玉を手当てする前に売りポジションを作ることをネイキッド・ショートセリングという。ところがこの空売り規制が裏目に出てユーロそのものが激しく売られた。
エコノミスト誌は「ドイツの空売り規制は、投資家達に保有する債券のヘッジをすることが困難になり規制はますます厳しくなるのでユーロ圏の資産に対する移り気を高めただけと見える」と評価を下している。同誌は「欧州が面している問題は国債に対する投機的な空売りではなく、そもそも投資家が国債を敬遠していることであり、国債を購入する市場を非難することは実に奇妙な政策だ」と喝破している。
投資家が欧州資産を敬遠している例として、欧州に3千億ドルから5千億ドルの資金を供給していた米国のマネーマーケットファンドがエクスポージャーを絞り出していることをエコノミスト誌は紹介していた。このような資金パイプの縮小がLIBOR金利を押し上げ始めている。
米国ではオバマ大統領が任命した最初の連銀理事のダニエル・タルーロ氏が「最悪の場合は2008年のリーマンショックのような金融市場の凍結が起きる可能性があった・・・・米国の状況は欧州とは極めて異なるが、米国を含めていかなる国もタイムリーに持続可能な財政プログラムを確立させる必要がある」と上院で証言した。
そうまさにこれは他人事ではない。このまま行くと数年後の日本に起こりうる話である。
ところで今回のギリシア危機で明らかになったことの一つは「信用リスクが高まると小さい国の国債は外国の投資家に売りにくくなる」という事実だ。ユーロ圏内の国に実質的なデフォルトリスクが極めて少ないと投資家が信じていた時は、投資家はユーロ圏の国債全体をベンチマークとしていたのでギリシアなどの国債も購入していた。ところがデフォルトリスクが高まって来るとファンドマネージャーは「それらの国債を保有してデフォルトした時の評判リスクを恐れて小さな国の国債を敬遠する」ことをエコノミスト誌は指摘していた。つまりベンチマークに占めるポルトガル国債などのウエイトは低いのでトータルリターンには余り影響を与えないのに対し、持っているリスクの方が高いということだ。
このような事態が続くとすると小国は独自で起債することがますます難しくなる。欧州の債券市場が安定するのはかなり先のようだ。