文藝春秋4月号に神谷秀樹(みたにひでき・ロバーツ・見たに創業者)さんが「アベノミクス『危険な熱狂』」という寄稿を寄せていた。神谷さんが昔ごルードマンザックスのニューヨークで働いていた時何度かお会いしたことがあるので懐かしさを感じながら記事を読んだ次第。
記事のポイントをかいつまんで紹介すると次の通りだ。
- 国民の多くがアベノミクス幻想に陥りつつあるが、この政策は根本的に間違っており、遠くない将来、悲惨な結果を招くと見ている。
- アベノミクスはAアセット、Bバブル、Eエコノミックスで、いま喜んでいるのは、バブルに乗って一儲けしたい投機家ばかりだ。
- 日米とも、根本的解決を図るにはまず「稼げる国」になり、次に、生活水準を収益力と均衡させ、稼げる態勢を「持続可能なもの」にする必要がある。経済成長(インフレーション)はそれからの話である。
- 円安に輸出企業は喜んでいるようだが、今後、確実にエネルギー価格、食品価格の上昇をもたらす。
- 世界を見渡すと、本当に強い国(経済)とは、北欧やスイスのように、健全な財政を保ち、強い通貨を維持し、国債の最上格付けを持っている国だ。
私は神谷さんほど激しくアベノミクスを一刀両断しないが、金融政策や財政政策は劇薬でその効果が限定的な割に、間違えると副作用は大きいと考えている。神谷さんのご説は正論だが、今の日本は劇薬に頼らざるを得ないところまで、切羽詰まっているのかもしれない。
アベノミクスつまり大胆な金融緩和・機動的な財政政策・民間投資を喚起する成長戦略を支持する人からは、「米国は大胆な金融緩和政策により、労働市場が改善し、経済成長が上向いてきた。日本も大胆な金融緩和でデフレ脱却と成長路線復帰が可能だ。」というような反論が聞こえそうだ。
確かにアメリカの労働市場や住宅市場はかなり改善し、経済成長率を上方修正するアナリストが増えてきた。
だがそれは連銀の大胆な金融緩和政策QE3の効果によるものだけではない。日米にはファンダメンタルズの大きな違いがある。一つは米国は移民などの効果で今も人口拡大が続いている国、ということだ。2050年までの間に日本の人口は2割減少すると予測されるが、米国の人口は1.5倍に拡大すると予想される。人口増は経済成長の根幹である。人口増が見込まれるから企業は増強投資を行う。
第二はシェールガスの開発・利用がアメリカの経済基盤や貿易構造を根本的に変える可能性が高いことだ。以前は貿易拡大に必ずしも積極的でなかった米国がTPP等で活発な動きを示しているのもその一つだ。
第三は政治目標の違いだ。オバマ大統領は「中産階級の再建」にすべての政策を結びつけている。中産階級の雇用を安定させ、所得を拡大することが民主主義と社会の持続的発展の要であることが分かっているからだ。
アベノミクスが悲惨な結果を招くイリュージョン(幻想)に終わるか、日本再生のステップボードになるかはまだ分からない。分からない、というのは三番目の「構造改革を伴う成長戦略」を実施できるかどうか、その覚悟があるかどうか、さらには中産階級の再建や国際的競争力のある人材教育まで踏み込んでいけるかどうか、分からないからである。
分からないというとほとんどのことは分からない。3,4ヶ月前にドル円為替が95円を超えると自信を持って予想した人は余りいないのではないか?
分からないけれど「持たざるリスク」を回避するため、多少リスク資産のexposureを増やしておく、というのが妥当ではなないだろうか?と私は考えている。