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資産価値の上昇と消費効果~アメリカの話だが

2013年03月13日 | 社会・経済

アベノミクスのおかげで株価や外貨資産の価値が上がり、資産効果で消費が増えると指摘する人がいる。しかし資産価値の上昇と消費増について日本ではあまり実証的な研究はなされていないようだ。たまたまニューヨーク・タイムズを読んでいたら、Bruce Bartlett氏がこの問題に関する実証的な研究を紹介していたので、少し勉強してみることにした。

Karl E.Case,Robert J.Shiller氏などの研究によると、非金融資産の代表である住宅価格の1ドルの下落は消費を10セント減少させ、住宅価格の1ドルの上昇は3.2セント消費を増やすという。

連銀によると家計が保有する住宅価値は2006年の22.7兆ドルから、2012年の17.7兆ドルに5兆ドル減少した。これを上記の説に当てはめると、住宅価格の下落によって消費が5000億ドル減少したことになる。

一方株価の変動と消費については、資産価値の1ドルの変化は消費に2.5セントの影響を与えるという。米国家計の金融資産残高は株高により2011年の50兆6,053億ドルから12年の54兆3,905億ドルに約4兆ドル増加したが、消費拡大効果は1,000億ドルにとどまることになる。

巷間米国の家計は日本に較べて株式保有比率が高いと喧伝される。事実統計上は日本の家計の有価証券保有率は15%弱だが米国のそれは40%弱と高い。だがこれは米国の超富裕層で資産構成に占める株式比率が非常に高いことに引きづられた統計結果で、中産階級の株式保有比率に関しては日米間に極端な差はない、と考えおくほうが良さそうだ。さもないと「だから日本の家計ももっと株式投資を増やさないといけない」という証券会社の片棒を担いだような政治家の発言を真に受けてしまう可能性がある。

Bartlett氏の記事によるとニューヨーク大学の経済学者Wolff氏は「年金勘定を除くと、中産階級の純資産の3.1%だけが企業株式で、2/3はホームエクイティ(住宅価値から住宅担保ローンの額を控除した価値)の価値である」と述べている。

単位あたりの株式価値の上昇が消費に与える効果は住宅価格のそれより小さく、かつ株式保有が富裕層に偏っていることを考えると、米国で消費を拡大するには株価より住宅価格を上昇させる方が重要だ、ということが見える。さらには住宅価格の下落と上昇の消費に与える影響力の非対称性を考えると、住宅価格の下落を招かないような政策運営が極めて重要だ、ということも見えてくる。

ところで日米の家計による資産保有状況を比較してみると、2006年当時の米国家計の総資産は78兆9,868億ドル(約7,503.7兆円)で62.6%は金融資産で、住宅など非金融資産が37.4%だった。同時期の日本家計の総資産は2,759.2兆円で金融資産の割合は58.5%だ。

2012年には米国の総資産は79兆5,248億ドル(約7,554.9兆円)と06年水準を超えたが、日本家計の12年の総資産は2,555.7兆円と06年水準を201.5兆円7%以上も下回っている。減少要因としては家計が保有する株式が220.6兆円から86.9兆円に133.7兆円減少したことや土地価格が78兆円減少したことが大きな要因だ。

ホームエクイティを老後資金に活用する米国と建物価値の下落が激しく自宅を老後資金に活用する手段が限定される日本では、米国の研究成果をそのまま利用することはできないが示唆するところはある。

たとえば日本でも消費を拡大する方法は、住宅の金融資産としての活用方法の拡大(たとえば戸建住宅の賃貸化)にあるのではないだろうか?

因みに上記統計に基づく12年の日本の一人当たり家計総資産の平均は20百万円で米国の24百万円には劣るが中々の数字だ。問題は米国では総資産額がリーマン・ショック前の水準近くまで回復しているのに日本では減少傾向が続いていることだろう。

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