FTはサブプライム問題に端を発する信用収縮でローン債権の流通市場が崩壊していたが、再開の兆しがあると報じている。そこで一番注目されていることはローンを引き受けた銀行が今の適正価格に合わせて保有ローン資産を時価評価して評価損を計上しうるかどうかという点だ。FTはバブル崩壊後の日本の銀行を引き合いに出し、邦銀は評価損を出さなかったから日本経済にリカバリーは遅れたと述べている。
その当時不良債権の処理に関わったものとして多少の弁明をすると、銀行の心ある経営陣や幹部は決して不良債権をバランスシート上でキャリーすることを望んだ訳ではない。むしろ出来る範囲でバランスシートから切り離す努力をした。当時の税制などが不良債権の早期無税償却を認めなかったことが最大の問題だったのだ。負け犬の遠吠え的だがいうべきことは言っておきたいと思う。
さてFTの記事のポイントは次の通りだ。
- 2ヶ月間投資家が米国のサブプライムローンや大型のLBO債務を購入しない状態が続いたが、銀行は在庫処分に動き始めた。数十億ドルにのぼる償却を実施した後、ドイツ銀行、シティグループを含む銀行達はこれらの資産を新しい証券に仕立てるかあるいは投資ファンドに売却するなりして、資産をきりはなそうとしている。銀行は毀損した資産に資本を配布しているよりもバランスシートをきれいにしてフレッシュ・スタートを切ることを望んでいる。
- もっともこれらの動きは批判を呼んでいる。特に毀損したローン債権を購入するファンドに融資を行うことについては目をそばだたせている。つまり銀行は売却するローン債権の価格を人工的に高くするため、投資ファンドに賄賂を与えることを意味するのではないか?という訳だ。同様に疑問は銀行がCDOを組成するときにも起きている。銀行は彼らの報酬をカットし、入札者を誘引するためにディスカウントしているというものだ。
- しかし今銀行が作り出しているストラクチャーが複雑だからという理由で銀行が信頼できないということにはならない。また銀行がローン債権を買う投資家に対して融資を行うにしても、額面割れで売却されること自体安心感を生むものである。それは銀行が問題案件を持ち続けることではなく、償却を行ったことを意味するからだ。これはこの夏の信用収縮が米国における発達した信用危機に拡大しないことを確実する上で極めて重要なことだ。
- 欧州と米国の銀行が数十億ドルにのぼる償却を行いながら、ローン債権を売却するという事実は歓迎するべきである。恐らく銀行が提案する総てのスキームが検閲に合格することはないだろうが、彼らは正しい方向を向いている。
サブプライム問題に起因する信用収縮やローン債権流通市場の崩壊が欧米で起きたことは世界の金融界にとって幸いであった。欧米に金融機関はここ数年大きな利益を上げてきたので毀損した資産の簿価を一気に切り下げるため大きな損失を計上することが可能である。
市場型資本主義のポイントは時価評価の適正さにある。大手金融機関が適正な時価会計処理を行い、償却後の資産を流通市場に流すようになれば、私は雨降って地固まるであると考えている。人類は少しずつだが賢くなっていると信じたいものだ。