金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

中国は日本のバブルの轍を踏むのか?(その2)

2010年01月17日 | インポート

【中国の過剰な銀行融資】

中国の「資産バブル」や「過剰投資」については大きな懸念を示さないエコノミスト誌だが、過剰与信には懸念を示している。同誌によると昨年30%以上伸びた銀行与信は今年は2割以下に減速する見込みだが、それでも年末にはGDPの135%に達する可能性がある。過剰与信を懸念する人民銀行は既に政策金利を引き上げているが、先週準備率を0.5%引き上げた。

もっとも昨年まで中国の過剰与信が他の国より甚だしかったか?というとそうでもないとゴールドマンザックスのアナリストは述べている。与信残高の伸びと名目成長率の伸びのギャップは大部分の先進国より小さいというのがその論拠だ。

昨年増加した与信の大きな部分はインフラ関係であり、返済の見込みは少なく、最終的には政府の負担につながるものだろう。そこで重要な疑問は政府にその負担能力があるかどうかという点だ。

公式的な中国政府の債務はGDPの20%以下である。もっとも中国に対して悲観的な見方をする人は地方政府の債務などを加えると、中国の公的債務はGDPの50%になるのではないか?と推定している。しかし50%としても先進国の平均90%程度~日本の国債残高はまもなくGDPの2倍になる~、に較べるとかなり低い。また中国政府は上場している中国企業の株式~GDPの35%に相当~など多くの資産を保有しているので財政面のゆとりは先進国より大きいといえる。

【中国でバブルがはじけるとどうなるか?】

今まで見てきたようにエコノミスト誌は中国の経済状態は今のところバブルではないという見方を示しているが、将来バブル状態になり、はじけたとしても日本のように不況が長く続くことはないだろうという見解を示している。

その理由は現在の中国と80年代後半の日本の違いにある。80年代後半の日本は先進国として既に成熟していた。一方中国は未だ貧しく発展途上の国であり、一人当たりGDPは米国や日本の10分の1より少ない。従って資本財を蓄積して先進国にキャッチアップする余地が大きい。

エコノミスト誌は「中国の現在の状態は日本の80年代のバブルよりも60年代のバブルとの類似性が高いだろう」という見方を示している。60年代当時の日本は年率9%と高度成長状態にあったからだ。バブルが崩壊した後、経済成長率は一時6%以下に低下したが、すぐに10%成長に戻りそのペースが長く続いた。

【日本からの教訓】

中国の経済状態は日本の60年代との対比で考えるべきかもしれないが、中国の政治家にもっとも影響を与えているのは日本の80年代の経験である。そして彼等は日本のデフレと失われたニ十年(昔は失われた10年だったが、いつの間にかdecadesと複数形になってしまった。)はプラザ合意でドル安・円高になったことが原因だと判断し、人民元の切上に反対しているのである。

これに対しエコノミスト誌は「日本の本当の誤りは円高を許したことではない。円高を認めることを引き伸ばしすぎたので、円高を認めた時円が急騰したのである」と第一の問題点を指摘し、そして次の日本の間違いは「円高による経済のマイナス効果を緩和するために、金融緩和策をとったことである。もし引締策をとっていたならば、金融バブルはもっと小さく、その影響も小さかった」と述べている。

☆   ☆   ☆

「中国はバブルの轍を踏むのか?(その1)」について、ファーブルさんという方から丁寧なコメントと幾つかのご質問を頂いた。その一部について簡単に私のコメントを述べたいと思う。

一党独裁体制については欧米では問題にしていないのでしょうか?他の新興国についても同様にどうでしょうか?

投資やビジネスの観点からみても(つまり政治的・思想的な観点ではなく)一党独裁制について、問題視する人はいます。一党独裁の場合は万一政権が転覆した場合の政策の振幅度合いが想像しにくいという問題があります(他にも問題は沢山ありますが)。ただしアジアの多くの国は少し前まで事実上一党独裁体制でした。因みにいうと日本も昨年夏民主党が政権を取るまで一時期を除いて、戦後は事実上自民党の一党独裁体制でした。もっとも自民党の中の派閥が交代することで、世論を反映していくということはありました。

中国における一党独裁にもこのような面があると見ておいて良いでしょう。

経済が発展する過程では一党独裁制の方が迅速に意思決定ができるというメリットがありますが、経済状態が一定レベルに達すると国民の参政意識が高まり、一党独裁は維持できなくなります。中国の今後の最大の課題は、一党独裁制を維持しうるかどうか?もし複数政党を認めるならいかにスムーズに移行するか?また一党独裁を維持するなら、高まる国民の政治への感心にどのような方法で応えるか?ということでしょう。

発展途上国の中で複数政党による議会制民主主義を行っている国の代表はインドです。独立時より民主主義の下、複数の政党による政党政治が行われてきました。このためインドは中国より経済発展の速度が遅かったという人がいます。しかし現在のインドの経済成長には目を見張るものがあります。もともとインド人は論理性が高いうえ、政党政治で議論に慣れているので、高度な分野においては中国人より優位性があるという意見もあります。

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落合川の野鳥たち

2010年01月16日 | まち歩き

ウィークデイには経済、金融あるいは株を語っているこのブログだが、週末はできるだけ浮世離れした話を取り上げたいと思っている。相場とは前のめりになって見るものではなく、少し斜めの姿勢で見る方がよく見える・・・というのが私の経験則である。ご賛同される方はしばしこのサイトにお留まりあれ。

今日土曜日(16日)は隣町・東久留米市に野鳥観察に出かけた。きっかけは数日前のコミュニティ新聞に野鳥観察会の募集案内が出ていたことだ。主催者はボランティア団体の「東久留米 水辺の生きもの研究会」さん。3百円払って午前9時から2時間半のバードワッチング会に参加した。自宅からはクロスバイクに乗って集合場所の落合川水生公園(こぶし橋)へ。半時間程要するのではないか?と思っていたが、15分弱で到着。サイクルコンピュータの距離を見ると僅かに3.8kmだ。

40名ほどの参加者が最初に目にしたのはカルガモの一群だ。

Karugamo

カルガモはカモ類の中では珍しくオスメスの違いが分かり難い。上の写真はどちらがオスでどちらがメスでしょうか?

カモの中で見分けやすいのはオナガガモやマガモなど。オナガガモはオスメスの差が大きいが、オスの尾羽はひときわ美しい。次の写真はマガモ(オス)

Magamo

カモの仲間で私のような素人でもすぐに特定できるのはオナガガモだ。

Onagagamo

カモの仲間で可愛らしいと思うのは小型のヒドリガモだ。

Hidorigamo

左前が雌で後ろが雄。カモ類はおしなべて雄が美しい、と講師の人が解釈を述べると「人間とは逆ですね!」とご婦人方の声があがった。

カモ類は落合川に沢山いるので、参加者の関心は余り見れないと鳥に動いていく。そんな鳥の中で人気があったのはキビタキ。お腹が黄色い雄は1羽姿を見かけたけれど写真を撮る時間なし。その替わりといっては何だがとても人懐っこい雌が写真に付き合ってくれた。

Jyoubitaki

ジョウビタキはかわいいからもう1枚写真を紹介しておこう。

Jyoubitaki2

日頃目に付く野鳥の人気はさほど高くない。セキレイの仲間は簡単に眼にすることができるので誰も珍重しない。

写真はキセキレイだ。

Kisekirei

次の写真はハクセキレイ。

Hakusekirei

つぶらな瞳のジョウビタキに較べると可愛らしさで劣るようだが、これは見る人間の主観的判断に過ぎない。

サギの仲間ではコサギを一番近くで見ることができた。

Kosagi

ダイサギは川沿いの民家の屋根に長いこととまっていた。

Daisagi

アオサギは大きな木の上にとまっていたが写真写りは悪かったので写真は割愛する。

今日はカワセミをみることはできなかったが、河川工事が終わる春以降は戻ってくるという話だ。次はカワセミを見に落合川を歩いてみよう。

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中国は日本のバブルの轍を踏むのか?(その1)

2010年01月15日 | 社会・経済

このところ内外のメディアで中国の話題を目にしない日はない。例えば「昨年の中国の自動車販売台数が米国を抜いて世界一になった」とか「昨年の中国の輸出額がドイツを抜いて世界一になった」など。また今年のどこかの時点で「中国のGDPが日本を抜いて世界第2位になった」というニュースが暫く日本のマスコミを賑わすだろう。

ポジティブなニュースとともに一方「中国のバブル崩壊リスク懸念」が漠然と高まっている。これについてエコノミスト誌はNot just another fakeという題で、現在の中国と80年代の日本を対比させながら、結論としては「中国のバブル崩壊リスク」は高くないと述べている。その結論が正しいかどうかはじっくりと検討するとして、客観的でデータに立脚した議論は傾聴に値する。

エコノミスト誌は中国に対する悲観論は3つの大きな論点があるという。それは「過大評価された資産価格」「過大投資」「過剰な銀行融資」である。

【中国の資産は過大評価されているのか】

エコノミスト誌は80年代の日本に較べると中国の株価はほとんど過大評価されていないと述べる。80年代の日本のPERは約70。これに較べて現在の上海A株のPERは28、これは長期的なPER平均38より低い。昨年中国株は80%上昇したが、ブラジル、インド、ロシアの株は平均120%(ドルベース)上昇している。一方中国企業の利益はどこよりも早く回復し、9-11月の利益は昨年比7割アップしている。

中国の不動産市場は過熱している。北京や上海の新築アパートの価格は昨年5-60%上昇した。しかし全国ベースで見た平均的な住宅価格はバブルと呼ぶべき状態ではない。バブルか否かを見る一番の物差は平均的は住宅価格と平均的な年収の比率である。大部分の先進国では住宅価格は年収の4,5倍であるが、中国では10倍弱だ。だがUBSのエコノミストは「中国の住宅購入者の大きな部分は人口の2,3割を占める最も裕福な都市部住民なので、この層の平均で見ると年収比率は先進国並みになる」と主張している。一方日本では90年代には住宅価格は年収の18倍にもなっていた。

また中国の住宅取得では日本に較べて、住宅ローンへの依存率が約50%と低い。中国の家計が背負う債務の可処分所得に対する割合は35%で90年代に日本の130%に較べると相当低い。

もっとも中国で(まだ)住宅バブルに火がついている訳ではないが、北京や上海の住宅価格が大部分の一般人の手が届かないものになっている事実は深刻な社会問題である。当局は投機的取引を抑える目的で5年以内に売却される住宅に対して再課税を行うなど、投機的取引を抑制する施策を実施している。そして住宅価格抑制策を直ぐ取らないと、バブルに火がつく可能性がある。

【中国は過大投資なのか?】

昨年の中国の固定資本投資はGDPの47%と推定される。これは日本のピーク時より10%高い。大部分の先進国では固定資本投資はGDPの約2割である。しかしこの数字だけで中国は過大投資だと判断することはできない。何故なら日本や米国の一人当たりの固定資本のストックに較べると中国のそれは5%と非常に低い水準にあるからだ。

中国は旧ソ連と同じく資源の大きく誤った配分を行っているという議論もある。資源の効率的配分度合いを測定するには、全要素生産性が最適である。もし中国がソ連と同様に資源の無駄な配分を行ってきたのであれば、全要素生産性がマイナスになるはずであるが、中国は過去20年間世界で最も高い全要素生産性の伸びを示してきた。

また中国の産業界が明らかに余剰能力を持っているにしても、批判者は実態を過大視している。金融危機前の2008年において中国の一人当たり鉄鋼生産量は米国よりも高かった。なぜかと言うと中国は工業化の段階にあるので、多くの鉄鋼を使うからである。

つまり現在の中国の鉄鋼生産能力は工業化の段階にあった米国や日本と比較されるべきである。UBSのアナリストによると、現在の中国の鉄鋼生産能力一人当たり0.5kgは、1920年代の米国の0.6kgより少し少なく、日本のピーク(1973年)の1.1kgよりはるかに低い。

また多くの評論家は中国の昨年の資本投資は生産能力の余剰を悪化させただけだと不満を述べるが、実際はインフラ投資が大部分で工業への投資は減少している。

中国はまだまだインフラ整備を必要としている。例えば中国の農村の5分の2はまだ近くの商業地につながる舗装道路を持っていない。また鉄道を例に取ると中国とほぼ同じ面積の米国では1916年に40万キロ以上の路線が完成していたが、中国では2012年までに11万キロの路線を完成させる予定である。

☆  ☆  ☆

このように見てくると中国の設備投資は、発展途上国が先進国に移行する段階で必須のインフラ投資に関わるもので、今の段階で過剰設備問題の懸念は少ないというエコノミスト誌はかなり説得性がある。

一方エコノミスト誌は「過剰な銀行融資」は一番の懸念材料という。この点については次のブログで紹介したい。

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JALの株が8円で買われる理由

2010年01月15日 | 株式

正月明け4日に88円だった日本航空JALの株が、昨日8円まで下落したことはご存知の通り。お昼休みのサラリーマンの話題は「上場廃止見込みのJALの株を誰が買うのだろうね?」「空売りしていた筋の買戻しじゃないの?」というところだろう。日経新聞(15日朝刊)には「短期売買で利ざや確保を狙う個人らが取引に加わっているとみられ」という説明が出ていた。だがどうもそれだけではあるまいと思っていたところ、ファイナンシャル・タイムズFTに一つの答えが出ていた。

それは何かというと「株主優待券狙いで買っている人がいる」という分析だ。

JALは1000株持っている株主に年1回航空運賃が半額になる優待券を貰える。FTは国内便の正規運賃は3万円以上するから、1000株を8円で(つまり8千円払って)買っても、運賃が15,000円になればペイする(この計算は私がしたもの)ので、JALの株を買う人がいるのだと解説している。

企業再生支援機構は3千億円の新資本を投入し、6千億円の信用枠を準備する計画だから、約3千社のサプライヤーへの支払は問題がなさそうだ。またマイレージも保護される予定だ。しかし株主優待制度が持続するかどうかは不透明だ。

もし株主優待制度が持続するのであれば、今の倍程度の価格でJALの株を買ってもペイする計算になるが、さあ、あなたならどうしますか?

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グーグルの検閲撤廃要求どうなるか?

2010年01月14日 | 社会・経済

昨日(13日)から欧米のメディアを賑わせていたのは、グーグルが中国からの撤退も視野に入れて、中国当局に検閲撤廃を要求した件だ。

これに関する一番新しい情報は、14日の国務院情報省のトップ・Wang Chen氏が要求を拒絶したというニュースだ。

中国当局はグーグルの要求を拒絶すると観測されていたが、公式見解は少し間をおいて示された。私は中国当局はグーグル以外のIT大手企業の対応を見守っていたのではないか?と考えている。グーグルのライバル企業が歩調を合わせなかったので、中国政府は自信を持ってハードポジションを取ったのだろう。

例えばマイクロソフトのCEO・スティーブ・バルマー氏は「これはグーグル固有の問題である。総ての大きな組織はハッカー攻撃を受けている。これがインターネットの安全環境を根本的に変えるものとは考えない」と述べている。

またヒューレッド・パッカードのHurd CEOは「中国は巨大な成長性を持った魅力的な市場で昨年米国のIT業界の救いになった」「グーグルへのハッカー攻撃を持って、IT拡大への脅威になるとは言いたくない」と述べている。

米国のIT業界の大物の足並みが揃わなかったことで、中国政府はグーグルの要求を退け、インターネットの検閲を続けることを明確にしたと私は見ている。

ここから先は私の推測だが、グーグルは検閲撤廃の要求が拒絶されたので、中国市場から撤退することになるだろう。というのは「グーグルは、ハッカー攻撃とサイトの検閲を口実として、つまりビジネス上の理由と思われることなく、中国から撤退したいと考えていたのだろう」というエコノミスト誌の中の一つの見方に合理性があると考えるからだ。

グーグルは中国市場で6割のシェアを持つサーチエンジン百度Baiduとの差を縮めることができていないし、今後もできないだろうと予想されるからだ。グーグルが中国で上げる利益は微々たるものだが、コストは小さくない(エコノミスト誌)のである。だからこの機会に撤退するという見方だ。

中国政府はグーグルの検閲反対の声明がインターネットに流れた時制限をかけた。しかし中国のインターネット利用者は熟練し始めていて「ヴァーチャル・プライベート・ネットワーク」ソフトウエアをインストールすることなので海外のウエッブサイトを自由に閲覧できるようになっている。それでグーグルを支持する書き込みがインターネットのフォーラムにたちまち出てきた。

結局のところ国内サイトの検閲を通じて情報統制を図ろうとする中国政府の試みには明らかに限界がある。

またグーグルがこの時期に中国政府に検閲反対とサイバー攻撃問題を持ち出した裏には、米国政府の強い後押しがあったと見られる。米中間の数ある対立点の一つという訳だ。

このように考えると、グーグルの検閲撤廃要求というイベントは、実質的な問題というよりも、政治的な問題とみるべきだろうと私は考えている。

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