惑星ダルの日常(goo版)

(森下一仁の近況です。タイトルをはじめ、ほとんどの写真は交差法で立体視できます)

SFセミナー2015

2015-05-05 21:52:33 | SF

 午前10時40分より御茶ノ水・全電通労働会館ホールにて「SFセミナー2015」。昼の部に参加しました。順を追って、簡単に内容紹介を。

 

[1] 東山彰良インタビュー(聞き手:大森望)

 

 2002年の第1回『このミステリーがすごい!』大賞で銀賞/読者賞を受賞し、デビューした東山彰良さんは台湾生まれ。お父さんが日本で就職したため、5歳の時から日本と台湾を行き来して育ち、小学校3年生からはずっと福岡に在住だそうです。
 2000年に(32歳の時ですね)、台湾のロックバンド・ウンパイ(?)と付き合い始め、彼らに刺激されて「自分も何かでのし上がらなくては」と思うようになったそうです。それでパソコンを立ち上げ、書いた小説で「このミス」大賞に応募。2009年には『路傍』で第11回大藪春彦賞を受賞しています。
 現実ばなれした設定だったり、ポストハルマゲドンだったり、ウサギがハードボイルド調の活躍をしたり、とSFの範疇にも入ってくる小説を書き続けていますが、設定をむずかしい用語で語ったりするのは苦手。エルモア・レナードなどのミステリ、ジャック・ケルアックやチャールズ・ブコウスキーなどの詩人兼作家の作品をよく読むそうです。来週発売の『流』は自伝的マジックリアリズム小説だそうで、大森さんによれば、版元の講談社の力の入れようはただごとでないとか。楽しみに待ちたいと思います。

 

[2] 生誕101年、改めて若者もラファティを押す(松崎健司、橋本輝幸、坂永雄一)

 

 好きな人はとことん好きなR・A・ラファティ。愛読者であり、伝道者でもある「ラファティ活動家」3人が、あらためてラファティの魅力を語る。
 本国アメリカでの崇拝者たちのこと、ロシア、ドイツ、フランスと広がるファン層、ファンジンの紹介を始め、いくつかのシリーズもの(?)ごとの作品やラファティ宅のドアの写真(色々なものがコラージュされている)からうかがえる、ラファティの「知識の蒐集家」としての側面など。好きな作家のことを語る喜びがつたわってきました。

 

[3] 豊田有恒インタビュー「私的日本SF創世記」(聞き手:日下三蔵)

 

 

 本人以上に作家の経歴に詳しい日下さんが、豊田さんから経歴を聞き出してゆきます。
 幼馴染の高斎正さんとの交友、SFとの出会い、デビュー、アニメ脚本家としての活躍、手塚治虫さんとのエピソード、〈少年マガジン〉編集長・内田勝さんや河出書房(後に集英社)・龍円正憲さんとの付き合い、匿名座談会事件など盛りだくさん。豊田さんは確かな記憶力でよどみなく、興味深い話を繰り出されました。
 ひとつだけ記せば、古書店で買ったアメリカの雑誌に載っていたポール・アンダースン『天翔ける十字軍』(後に豊田さんが邦訳)の連載第1回を読んで、続きを読みたくてしょうがなかった豊田さんが、後輩のSF仲間・伊藤典夫さんのところに行って、書架から目的の〈アメージング〉誌(?)を取り出し、借りようとすると、伊藤さんは泣きそうな顔で「なくさないでくださいね!」と言ったとか。様子が目に見えるようでした。

 

[4] 未来技術とSFの転轍点(鹿野司、大野典宏、八代嘉美、藤井太洋)

 

 サイエンスライター、最新テクノロジーに強い翻訳家兼会社経営者、生物学者、SF作家の4人が、ITの最先端とフィクションとの関係を探る。
 ブラックボックスと化した先端技術を立場の違う人たちがどう受けとるか、コンピュータのやっていることの実態について(4色問題をコンピュータを使って解いても感動がない)、バイオテクノロジーとの親和性、などなど。隣に座って聞いていたN木さんが「科学者同士のおしゃべりって、きっとこんな風なのね」といったとおりの談論風発タイムでした。
 興味深い話の一例としては、米国M社の「スーパーベジタブル」。遺伝子改変作物が嫌われるので、遺伝子改変技術で探ったターゲットどおりの品種を、交配によって生み出しているそうです。なにやら妙なねじれが起こっていますが、そんな状況を生み出す人間の心理とは何なんでしょうねえ。

 

 例によって、活字SFだけでなく、さまざまなジャンルについて、SFファンが真面目に学び、考えたこどもの日でした。

 

 「星新一オフィシャルサイト」の「寄せ書き」コーナーにエッセイを書かせてもらいました。他にも大勢の方が星さんについて書かれています。ぜひ、ご覧ください。