昨日(6月27日)北朝鮮が中国に核計画の申告書を提出した。これを受けて米国は対敵国通商法(The Enemy Act)の適用を取りやめ、テロ支援国家指定を取り消す予定と発表した。
夜のテレビを見ていると拉致被害者の家族の方が、インタビューに答えて「拉致問題が見捨てられるようで残念」という趣旨の話をしていた。日本のテレビが拉致問題に多くの時間を割くのは当然かもしれない。しかし冷静に見ると今回の北朝鮮の核計画申告はほとんど内容のないものである。このようなことをマスコミはもっと報じるべきではないだろうか?
内容がないというのは以下のような点である。北朝鮮はイランと異なり、核装備を実装し(イランは核を実装していないと見られる)、核実験を行っている。また核弾頭を保有している。しかし今回の申告書では「プルトニウムの生産・抽出量は記載するが、核兵器の保有情報は開示せず」(6月27日日経新聞朝刊)ということのようだ(中国はまだ受け取った「申告書」を公表していない)。
日経新聞によると「高濃縮ウラン型核計画と核拡散問題は別文書」と書いてあるが、北朝鮮は「別文書」を提出する積もりがあるのだろうか?
実はプルトニウムの生産設備は既に明らかになっているものや視察団により視察済みのものだとFTは報じている。北朝鮮はいつものやり口でだまそうとしているのである。
FTは「報告書の提出を持って、外交上の大成功だとか北朝鮮がまじめに核兵器を廃棄しようと考えているなどと騙されてはいけない」と警告している。この点については私もまったく同感で、北朝鮮が現在保有している核兵器の廃棄を行わない限り、テロのリスクは減少しないと考えている。
「外交とは血を流さない戦争であり、戦争とは血を流す外交である」という言葉があるが、北朝鮮がこのような駆け引きをしている間に恐らく相当数の北朝鮮の無辜の国民が食糧不足で飢え死にしているはずである。北朝鮮の歴史書には「外交もまた国民の血を流す戦争である」と書くべきであろう。
一方米国のブッシュ大統領は後数ヶ月で政権の座を降りる。最後に外交成果を挙げたいということだろうが、もし金正日につけ込まれることでもあると、汚点を拡大することになる。