原油や穀物の価格が急上昇する中で、商品先物相場のスペキュレーション(投機)を悪者呼ばわりする声が高まっている。先週末行われたG8蔵相会議でも、イタリアのトレモンティ蔵相などの要求により、IMFに投機的活動が原油価格急騰にインパクトを与えているかどうかの調査を依頼することになった。
G8の議長を務めた額賀財務相は「需給バランスが原油価格急騰の背後にあるが、金融的要素が影響を与えているかもしれない。それについて我々はまだ知らないが。」と述べている。
一方米国のポールソン財務長官は「投機筋悪者説」を否定しいてる。米国最高の投資銀行ゴールドマン・ザックスの会長を務めたポールソン氏が、投機筋悪者説を否定するのは当然といえば当然だ。だが立場は別として、私も投機筋悪者説には反対である。理由は次のとおりだ。
先物市場には投機筋と実需筋がある。実需筋とは農産物生産者、鉱山会社、原油生産者やその需要者つまり、商業プレーヤーである。一方投機筋とは相場観で先物を売り買いするプレーヤーである。
投機筋がコモディティ価格を押し上げているという説に対する最も有力な反論は「高い値段が付くということは、その価格で売る人がいる」ということだ。生産者は収穫時期にコモディティの価格が暴落していることを恐れ、先物を売り立てることで価格ヘッジを考える。一方コーン等を買い加工を行う食品会社は、収穫期に高い値段で購入せざるを得なくなることを恐れ、先物を買い立てることでヘッジを考える。しかし実需筋だけの取引では先物取引に厚みが出てこない。投機的な取引を行うものが、実需筋の取引相手方になることで、市場に厚みが出来て、値動きざスムーズになる。
従って投機筋がいるから価格の変動幅が大きくなるというのは、誤りで投機筋がいるので、価格変動が滑らかになると考える方が正しい。
また年金基金のような大手機関投資家が、商品先物市場に参入したので先物価格が急上昇したという説もあるが、これも間違いである。バークレイズ社の調査によると、2007年末で2千億ドルの資金が、マネージド・フューチャーズを通じて先物市場に流れ込んでいる。しかしこの金額は数年前に比べて際立って大きくなっている訳ではない。また今年第1四半期にこの数字は2,300億ドルに拡大しているが、増加分の最低でも半分は時価の増加によるものである。
年金基金のように運用方針が明確な機関投資家は、コモディティ先物に対する時価ベースの資産配分割合をあらかじめ決めている。従ってコモディティの価格が急騰して、時価総額があらかじめ決めた資産配分割合を超えた場合は、先物を売却することで資産配分割合を元に戻すのである。これを「リバランス」というが、これが価格安定効果をもたらすのである。つまりコモディティの値段が上がり過ぎた場合には、売りを増やし高値を押さえ、下がり過ぎた場合には買いが増えることで下値を支えるという訳だ。
話がやや専門的になったが、先物市場は現物価格の動きを緩やかにする効果があり、その効果に寄与しているのは値幅を取ろうとするプレーヤーであり、これをスペキュレーターと呼ぶが彼等は価格高騰の犯人ではない。
米国の国会議員の中には「総ての投機が悪い訳ではないが、『過度の投機』は取り締まるべきだ」という意見を述べる人がいる。しかし何が適正な投機で何が『過度の投機』なのかを区別することは不可能だろう。