金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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水は農業の基本

2008年06月22日 | 社会・経済

書斎で梅雨の雨を見ていると、水など無尽蔵にあると思い勝ちだ。しかし歴史を頭に置きながら、郊外を歩くと昔の人が灌漑施設を如何に重視したかが分かる。例えば野火止用水だ。この用水は17世紀中頃、玉川上水から分水され開かれたものだが、これによって新座方面で大規模な新田開発が可能になった。江戸時代の人は結構インフラ整備に取り組んだのだ。

もう一つマイナーな例を引くと、私の故郷・京都の岩倉には権土池(ごんどいけ)というため池がある。この池は幕末に岩倉の地に隠棲していた岩倉具視が、村民に助けられたお礼に300円の金を与えため池を作らせたものだ。子供の頃岩倉には豊かな水田が広がっていたが、その裏には岩倉具視の300円があったのだ。

日本には水が多い。しかし農業特に大量の水を必要とする稲作には、灌漑用水というものが必要だったということを歴史に当たると実感できる。

ところで最近欧米の新聞を読んでいて、目立つことは日本の新聞より食料不足に関する記事がはるかに多いことだ。今日読んだニューヨークタイムズ(NT)はインドの食料不足問題を解説していた。それによるとインドは米国についで耕作可能面積が大きい国なので、正しい農業政策が取られていたら、世界に食料を輸出することができて、食料不足を緩和させることができるという。その正しい農業政策の一つが灌漑施設の充実なのだが、現実のインドでは地下水の汲み上げ過ぎによる地下水位の低下が大きな問題になっている。

CIAが公表しているデータから計算すると、インドの耕作可能面積は145万k㎡で、米国の165万k㎡よりは少ないが、中国の138万k㎡を上回る。

1960年代まで「飢饉」はインドの代名詞だったが、60年代のグリーン革命でインドの農業生産性は高まり、飢餓を追い払うことができた。グリーン革命とは小麦などの品種改良、肥料や殺虫剤の利用、灌漑用水の充実などで農業生産性を高めることである。1968年から1998年の30年の間でインドの穀物生産量は倍になっている。

しかし1980年代以降インド政府は灌漑用水の拡大など農業インフラ整備の投資を削減してきた。農家は地下水をくみ上げて給水してきたが、この結果地下水位が下がってしまい、慢性的な水不足に陥ってしまった。

インドの農業の問題は水不足だけではない。インドでも他の発展途上国と同様、所得が増えたことで、富裕層を中心に高価な果物や野菜の需要が高まり、それらを生産する農家が増えている。しかし交通インフラが悪い上、保冷トラックが欠如しているので、農家の収入への寄与は少ない。インドでは消費者が払う価格の5分の1以下しか農家の懐に入らない。世銀によるとこれはタイや米国に比べてはるかに低い割合だ。また政府が貧困層を支援するため、農産物の価格を低く据え置いているという問題もある。

農業収入が低いので、農業への投資意欲がわかず、都市近郊農民の中には農地を不動産開発業者に売却するものも出ている。

これらの問題に異常気象が加わり、2年前インドは数十年振りに小麦を輸出せざるを得なくなった。農業学者の中にはこのまま行くとインドでは2080年までに農業生産は3割方減ると予想する人がいる位だ。

インドの農業は複雑な問題を沢山抱えるが、灌漑用水を充実させるなど第2のグリーン革命に取り組む必要が出ているだろう。

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