最近のエコノミスト誌はアジア諸国が海軍の軍備競争に入るのではないか?という主旨の記事を書いている。同様の記事はファイナンシャルタイムズでも読んだので、英米人に共通する話題なのだろう。そもそもこれらの記事は英国国際戦略研究所(IISS: International Instisute for Strategic Studies)の研究をベースにしている。
エコノミスト誌の記事は15世紀に明の鄭和が率いる大艦隊の話から始まる。それは読者にアフリカまで及んだい昔の中国の力を想起させ、中国がインド洋の覇権に思いをはせているかのような印象を与える。
私の記憶では中国はまだ役に立つ空母を持っていない。確かどこかの公園に動かない空母は飾りとして持っていたが。しかし中国は確実に海軍力を増強している。過去2年間で中国は駆逐艦、フリゲート艦、潜水艦を自国開発、またはロシアから購入して実装している。またIISSの研によると、中国は航空母艦の製造を開始する時期に差し掛かっている。中国は台湾に対する米国の介入を阻止するため、海軍の増強を望んでいた。しかしそれだけではなく海賊活動とテロ活動から原油や原材料を守るためにも、海軍力の増強が必要だった。
インドは2010年までに2隻の航空母艦を自国で建造し、1隻の中古空母をロシアから購入する予定だ。3隻の空母というと英国の空母と同数である。しかし海軍力の増強を図っているのは中国とインドだけではない。韓国もヘリコプター空母などを実装し、長距離海軍力を強化している。
これは海軍の軍備競争か?というのが英米人の最大関心事だが、先週末シンガポールに集まったアジアの国防大臣、参謀総長クラスの会合を分析したアナリスト達の大層の結論は、伝統的な意味で軍備競争はないというものだった。アジアには「インド・米国・日本・オーストラリア」グループと「中国・パキスタン」グループがあるが、中国とインドは対立を避けお互いの海軍の良好な関係を築こうと努めている。
だがエコノミスト誌は覚めた目で「アジア諸国が海軍力を災害・海賊・テロ対策などに協力的に使う方法は沢山あるが、同時に強い海軍力が戦争に発展する危険性もある」と指摘する。事例として出ているのは、Spratly Islands南沙群島で中国とベトナムが1988年に衝突したことなどだ。この事件では70名以上のベトナム人が死亡した。
またエコノミスト誌によると、偶発的な軍艦の衝突などが戦争に発展する危険性もあるので、アジア諸国は地域の安全保障について相互認識を高める必要があるとフランスの防衛大臣は指摘している。
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食料不足や資源不足はナショナリズムを高め、資源確保や航路の安全確保を口実として海軍力の増強が図られる可能性が高い。だがこのことは軍事衝突の可能性を高めている。それであればいっそのこと、原油価格が高騰して、空母やフリゲート艦の航行に支障をきたすほど、資源と予算が制約される方が良いかもしれない。「腹が減っては戦は出来ぬ」ということわざがあるが、「オイルがなくては戦は出来ぬ」という時代の方が人類には幸せなのだろうか?