金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

中国とインドが空母を持つ日

2008年06月06日 | 国際・政治

最近のエコノミスト誌はアジア諸国が海軍の軍備競争に入るのではないか?という主旨の記事を書いている。同様の記事はファイナンシャルタイムズでも読んだので、英米人に共通する話題なのだろう。そもそもこれらの記事は英国国際戦略研究所(IISS: International Instisute for Strategic Studies)の研究をベースにしている。

エコノミスト誌の記事は15世紀に明の鄭和が率いる大艦隊の話から始まる。それは読者にアフリカまで及んだい昔の中国の力を想起させ、中国がインド洋の覇権に思いをはせているかのような印象を与える。

私の記憶では中国はまだ役に立つ空母を持っていない。確かどこかの公園に動かない空母は飾りとして持っていたが。しかし中国は確実に海軍力を増強している。過去2年間で中国は駆逐艦、フリゲート艦、潜水艦を自国開発、またはロシアから購入して実装している。またIISSの研によると、中国は航空母艦の製造を開始する時期に差し掛かっている。中国は台湾に対する米国の介入を阻止するため、海軍の増強を望んでいた。しかしそれだけではなく海賊活動とテロ活動から原油や原材料を守るためにも、海軍力の増強が必要だった。

インドは2010年までに2隻の航空母艦を自国で建造し、1隻の中古空母をロシアから購入する予定だ。3隻の空母というと英国の空母と同数である。しかし海軍力の増強を図っているのは中国とインドだけではない。韓国もヘリコプター空母などを実装し、長距離海軍力を強化している。

これは海軍の軍備競争か?というのが英米人の最大関心事だが、先週末シンガポールに集まったアジアの国防大臣、参謀総長クラスの会合を分析したアナリスト達の大層の結論は、伝統的な意味で軍備競争はないというものだった。アジアには「インド・米国・日本・オーストラリア」グループと「中国・パキスタン」グループがあるが、中国とインドは対立を避けお互いの海軍の良好な関係を築こうと努めている。

だがエコノミスト誌は覚めた目で「アジア諸国が海軍力を災害・海賊・テロ対策などに協力的に使う方法は沢山あるが、同時に強い海軍力が戦争に発展する危険性もある」と指摘する。事例として出ているのは、Spratly Islands南沙群島で中国とベトナムが1988年に衝突したことなどだ。この事件では70名以上のベトナム人が死亡した。

またエコノミスト誌によると、偶発的な軍艦の衝突などが戦争に発展する危険性もあるので、アジア諸国は地域の安全保障について相互認識を高める必要があるとフランスの防衛大臣は指摘している。

☆       ☆        ☆

食料不足や資源不足はナショナリズムを高め、資源確保や航路の安全確保を口実として海軍力の増強が図られる可能性が高い。だがこのことは軍事衝突の可能性を高めている。それであればいっそのこと、原油価格が高騰して、空母やフリゲート艦の航行に支障をきたすほど、資源と予算が制約される方が良いかもしれない。「腹が減っては戦は出来ぬ」ということわざがあるが、「オイルがなくては戦は出来ぬ」という時代の方が人類には幸せなのだろうか?

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色々勉強になるインド株投資

2008年06月06日 | 株式

新興国投資が盛んな時代だから、インド株やインド投信に投資している人も増えている。しかし好調だったインド株も今年の1月にピーク(Sensex指数で20,500程度)を付けた後、急落し少し戻しつつあるが16,000手前で喘いでいる。投信の基準価格が急落して驚いている人もいるだろう。私もインドには株式投信と個別銘柄をADRで投資しているので、時々マーケットを見る。株式相場に騰落は付き物なので、一喜一憂する必要はないと思う。むしろ今のところは長期的にパフォーマンスを上げる、そしてその間にインド株を通じて世界経済のダイナミズムや分散投資の妙味を学ぶことが出来たら良いという程度に考えている。

少し前にデカップリングという言葉がはやった。これは米国の景気が悪化しても、成長力の高い中国やインドはそれ程影響を受けず、世界経済は停滞期に入らないというものだった。デカップリングとはDecouple。Deは「否定」「分離」を示す接頭語だから、カップルを切り離すという意味だ。ところでインド経済が米国経済の影響から独立しているか?というと中々難しい問題だ。

影響をもろに受けている一例はインド経済を牽引する情報産業だ。私はインドのITを代表するInfosys TechnologyのADR(米国預託証券)に投資しているので時々株価を見るが、Infosysの株価は米国景気とドル・ルピー為替レートと密接な関係がある。米国景気が後退すると、Infosys等インドの情報企業にアウトソースを行っている米国企業の受注が減るので、投資家はインドIT企業の業績悪化を予想する。このため一時60ドルを越えていたInfosysのADRは32ドル台まで下落した。その後売られ過ぎということで、値を戻し今は50ドル近くなっている。プラス材料はインド・ルピーが対ドルで急速に安くなったことだ。ルピー安はインドIT企業の増益要因なのだ。

ところでどうしてルピーが急落したか?というと、穀物価格の上昇に伴うインフレ懸念だ。昨年秋には3%台で落ち着いていた卸売物価指数は12月頃から上昇し始め3月には8%になり、この水準で推移している。

インドは来年5月に総選挙を迎える。インフレは政府に対する不満を高めている。政府は国民の不満を抑えるため、原油価格の値上がりを消費者に転嫁することをつい最近まで抑えていた(6月4日に少し値上げをしたということだ)。ガソリン価格を引き上げないということは、原油精製業者に補助金を出すことを意味し、それは財政悪化につながる。

財政悪化といえば、政府は数百万人の公務員の給料を引き上げることを約束している。またモンスーンで被害を受けた農民のローンを免除することも約束している。これらは財政赤字につながる。モルガンスタンレーによると、今年の赤字はGDPの9.4%になるという(以前はGDPの2.5%程度に抑えていたので、本当だとすると大変な赤字だ)

インフレと財政赤字拡大に嫌気がさして、海外投資家がインド株を売ったのでインド株の急落が起きたということだろう。インド株の株価収益率はピークでは28倍にも達していたので、水準訂正が起きても不思議はなかった。

インド株は色々と勉強材料を提供してくれる。

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農業への巨大投資、期待と懸念

2008年06月06日 | 社会・経済

ニューヨークタイムズ(NT)によると、幾つかの大手プライベート・エクイティが、農業施設への投資を始めつつある。既にヘッジファンドが、小麦や大豆の先物市場に巨額な資金を投じていることは周知の話だが、それはペーパー上の投資だ。しかし数は少ないけれど、幾つかのファンドは実際に農地やグレイン・エレベーターという巨大な穀物貯蔵庫兼出荷設備を購入しようと計画している。

例えばニューヨークのブラックロック・ファンドは数億ドルを投じて、サブ・サハラから英国にいたる農地を購入しようと考えている。これらの投資家達は、小規模農地を統合して、そこに最新技術を導入して農業の生産性を高める予定なので、短期的には世界の穀物生産を増やすという点で歓迎する声が多い。

しかしながら長期的な影響は短期的な影響に比べるとはっきりしない。これらの投資家は利益を最優先しているので、伝統的な農業界のように「市場が良い時も悪い時も農業を続ける」というコミットメントを持っているかどうか疑うものもいる。

特にプライベート・エクイティのような投資家に利益を与える可能性があるのは、グレイン・エレベーターのような巨大な穀物貯蔵設備だ。何故ななら貯蔵設備を持つことで、彼等は「紙の穀物」を売買するのではなく、現物を売買することができるからだ。現物を売買するということは現物を売り渋ることが可能だということだ。

穀物価格が上昇している時、彼等は売り渋ることで大きな利益を得ることができる。また世界各地の穀物価格を比較して、最も利益の出る地域に穀物を輸出するといった裁定を行うことも可能だ。

このことを良く知っているのでホワイトボックスというヘッジファンドの設立者は「現物取引を出来ないことは極めて不利だ」と言っているとNTは報じている。

日本の歴史を見ると為政者達は、業者が穀物つまり米の値段を操作することに頭を悩ましていた。例えば江戸時代の初期には米の空売りは死罪をもって禁じられていた。芭蕉の弟子に杜国(本名 坪井 庄兵衛)という名古屋の米屋がいた。彼は米の空売りをした罪で、家財没収の上追放されている(罪一等減じて死罪にはならなかった)。貞享2年1685年のことだ。

杜国には「うれしさは 葉がくれ梅の 一つ哉(かな)」という句があるが、渥美半島に追放された後の句だろう。

だが、米の値段は高過ぎても安過ぎても問題を起こす。高過ぎると米を買う庶民が困るし、安過ぎると米の売り手である武士(扶持米を現金化する)が困窮するのである。米の価格を安定させるために、やがて先物取引は解禁され、八代将軍吉宗の時には、大阪の米会所が認可されたのである。享保15年1730年のことだ。

話を現代に戻すとグローバルに投資を行う巨大ファンドを一国の政府が取り締まることは困難だ。彼等が農産物の生産拡大に貢献する時は良いが、もしマイナスになるような場合だれがコントロールできるのだろうか?

もっとも農業投資を行うプライベート・エクイティをカーギルなどの巨大穀物取引業者の同類と考えるならば、そのリスクを過大視することはないのかもしれない。いずれにせよ注目しておいて良い話だ。

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