先週金曜日に米株が暴落した。暴落の理由は予想より悪い雇用統計が、米国の景気悪化を裏づけしたと多くの新聞が理由付けを行っている。
しかしファイナンシャルタイムズ(FT)のコラムニスト・オーサー氏はもう少し深読みをしてコメントを書いている。失業率は5%から5.5%に急激に増えたが、同氏は「失業率が増えた理由は、卒業する大学生が求職者数に加えられたので、見かけ上失業率が上昇した」「雇用統計の数字は、米国の悪い経済状態を裏付けしただけのことで新しい材料ではない」という。
そして同氏は「この日の株価暴落を引き起こした本当の悪いニュースは原油価格の高騰だ」という。原油価格の高騰は、ドルの下落を引き起こす。ドルの下落は米国の輸出競争力を引き上げるが、ガソリン価格の上昇とともに消費者に大きな負担となる。
ところで原油価格が上昇するとどうしてドルが下落するか?というと、原油価格がドル建てだからである。原油以外の主なコモディティも米ドルで価格が決められているので、コモディティの価格が上昇するとドルが、コモディティとリンクしていないユーロに対して下落するのである。
「原油決済にドルを使う」ことを米国は長年外国政策の基本方針としてきたという仮説がある。米ドルを基軸通貨とし、諸国の外貨準備に保有させ、世界のコモディティの決済通貨にすることで、米国は大きなメリットを享受した。例えば米国債や高格付の社債を大量に発行して、ドルの米国への還流を図り、還流したドルを海外の高利回り案件に投資して利鞘を稼いだのである。
しかしこのようなスキームはドルの価値が安定していることが前提だ。原油が高くなると、ドルの価値は下がり、米国の消費者は高い原油を買わざるを得なくなる。今株式市場は原油価格を一番注目しているというが、その理由はこの辺りにあると私は考えている。