金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

ドルと原油

2008年06月10日 | 金融

先週金曜日に米株が暴落した。暴落の理由は予想より悪い雇用統計が、米国の景気悪化を裏づけしたと多くの新聞が理由付けを行っている。

しかしファイナンシャルタイムズ(FT)のコラムニスト・オーサー氏はもう少し深読みをしてコメントを書いている。失業率は5%から5.5%に急激に増えたが、同氏は「失業率が増えた理由は、卒業する大学生が求職者数に加えられたので、見かけ上失業率が上昇した」「雇用統計の数字は、米国の悪い経済状態を裏付けしただけのことで新しい材料ではない」という。

そして同氏は「この日の株価暴落を引き起こした本当の悪いニュースは原油価格の高騰だ」という。原油価格の高騰は、ドルの下落を引き起こす。ドルの下落は米国の輸出競争力を引き上げるが、ガソリン価格の上昇とともに消費者に大きな負担となる。

ところで原油価格が上昇するとどうしてドルが下落するか?というと、原油価格がドル建てだからである。原油以外の主なコモディティも米ドルで価格が決められているので、コモディティの価格が上昇するとドルが、コモディティとリンクしていないユーロに対して下落するのである。

「原油決済にドルを使う」ことを米国は長年外国政策の基本方針としてきたという仮説がある。米ドルを基軸通貨とし、諸国の外貨準備に保有させ、世界のコモディティの決済通貨にすることで、米国は大きなメリットを享受した。例えば米国債や高格付の社債を大量に発行して、ドルの米国への還流を図り、還流したドルを海外の高利回り案件に投資して利鞘を稼いだのである。

しかしこのようなスキームはドルの価値が安定していることが前提だ。原油が高くなると、ドルの価値は下がり、米国の消費者は高い原油を買わざるを得なくなる。今株式市場は原油価格を一番注目しているというが、その理由はこの辺りにあると私は考えている。

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「えらい」という日本語の危うさ

2008年06月10日 | うんちく・小ネタ

6月は多くの会社で役員が交代する時期である。挨拶状を見て「ああ、彼もえらくなった」とか「あの人も後任に道を譲る時期になった」などと多少の感慨を持つことがある。

ところでこの「えらくなる」という日本語についてある危うさを感じることがある。人を「えらい」という場合には、二つの面がある。一つはその人の知性や特性が立派だという場合。もう一つは会社や組織でランクが高い場合だ。これは英語に置き換えて考えると分かりやすい。

英語では前者の場合、Greatという言葉を使う。「彼はえらい科学者になった」はHe became a great scientistという具合に。一方会社でランクが上がる場合にはgreatとは言わず、単に地位が上がったという。

He has risen to a high position.という表現がヤフー辞書に出ていた。

ところが日本語では知性があり、人間的に立派な場合も会社や組織でランクが上の場合も「えらい」という。もっとも前者については「偉い」という漢字を使うことが多いが、後者については「えらい」と平仮名で書く場合が多い。そこに多少揶揄があるのだろう。

「知性があり、人格的に立派な人」が「高いランク」に着くのが、理想の社会であるはずで、この場合は「偉い」人が「えらい」人を兼ねるので問題はない。

ところで実際の社会において「知性と徳性」のある人が、高いランクを得るのだろうか?ここは実例を出すと差障りがあるので、アダム・スミスの「道徳感情論」を引用しよう。スミスは中流・下流の人々の間では「徳性」と「地位・財産」は概ね一致するが、上流の人々の間では、より大きな富、より高い地位を求めることは「徳の道」からの堕落を招く可能性が高いという(「アダム・スミス」堂目 卓生)

上流階級の生活においては、へつらいと偽りが、あまりにもしばしば真の長所と能力に優る。上流社会では、喜ばせる能力の方が、仕事の能力よりも尊重される」(「道徳感情論」)

英語が「知性や徳性」の高さをgreatと言い、「地位の高さ」をhigh positionと呼んだのは、「徳性の高さ」と「地位の高さ」が一致しないことを英国人が理解していたからだろうか?それとも単なる言語構造からくるものなのだろうか?

日本で「徳性の高さ」と「地位の高さ」をともに「えらい」と表現するのは、日本では「徳性の高さ」と「地位の高さ」が比例したのだろうか?それともこれも単なる言語上の問題なのだろうか?

中々面白い問題である。

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