インドの業務受託会社の役員達が好む冗談に「色々な投資銀行の業務がインドにアウトソースされる結果、ニューヨークやロンドンの投資銀行の役員達がすることは、お客をもてなし、ディールがクローズする時に握手することだけになる」というものがある。
ニューヨーク・タイムズによると、信用危機問題で徹底的な経費削減を強いられる投資銀行は、ミドル・オフィス的な仕事をインドや東欧圏にアウトソースすることを加速させている。ミドル・オフィス的な仕事というのは、投資リサーチや計量分析だ。これらの仕事はMBAを卒業して投資銀行に入った若い人達の仕事だった。彼(女)等の年収は日本円で1千数百万円だ。この仕事をインドに持っていくとどれ位のコストダウンになるか?新聞に情報はないけれど、数分の1になることは間違いない。
今年ニューヨークの金融機関が払う給料は総額で昨年に較べて2兆円弱ダウンすると見られている。また2009年までに金融機関は20万人の人員削減をする予定だが、その埋め合わせを海外への業務のアウトソースで行う訳だ。
アウトソースといっても、自社のインドの拠点を使う場合もある。例えばシティはリテイル業務をやっているので、当然インドでの従業員も2.2万人の多い。その内の数百人は本社の投資リサーチを請け負っている。
会計事務所のデロイトによると、理論的にはミドルオフィス的な業務の4割はコストの安い海外にアウトソースできるということだ。
もっともニューヨークから大きな雇用機会を奪うこのプロジェクトは「微妙な問題」なので、投資銀行のトップ達もコメントを控えている。
だがもしドンドンアウトソースが進んでいくと、冒頭に述べたようにニューヨークやロンドンには一握りのセールス・パーソンがいれば済むという事態も起こりかねない。海外への業務委託は短期的には収益改善策になるが、長期的には金融センターであるニューヨークやロンドンの雇用力つまり経済基盤を失わせる可能性が高い。
そして安くて質の高い労働力を使う欧米の投資銀行に対して、日本の大手金融機関が対抗策を講じることが出来なければ、結局コスト競争力とディール・スピードで負けてしまうことになる。
知的な業務をアウトソースすることをKnowledge process outsourcingとかHigh value outsourcingというそうだが、これからのキーワードになるかもしれない。もっともこれらの言葉が「日本語」になるころには、勝負は決まっている可能性が高いのだが。