先週金曜日ある投信委託会社の役員と秋葉原の「響」で飲んだ。彼とは仕事仲間というよりは、飲み・麻雀・ゴルフの付き合いの方が多い。「これだけ相場が悪いと投信は売れないでしょ?」と聞くとその通りという返事。「売れるのは高配当の外債ファンドですが、基準価格は下がる一方ですしね。」
好調だったファンドビジネスも足踏み気味だ。しかし本当はベア(弱気)相場が投資にとって悪いか?というとそうではない。何故なら相場が下がっている時は将来値上がりする可能性のある資産(株や不動産)を安く買う絶好に機会だからだ。これは古今東西、儲ける投資家が実践する鉄則だ。ただしこのルールは買った資産を長期間保有して値上がりを待つことができる場合や万一目論見が外れてもやり直しが効く場合にのみ当てはまると考えるべきである。退職者や退職時期が近い人が取るべき戦略ではない。
そういう意味で退職者を主要顧客とする銀行系投信会社の販売が鈍化するのは当然のことかもしれない。
日曜日の朝ニューヨークタイムズを見ていたら、下げ相場局面で退職者はどうするべきか?というテーマの記事があった。米国の退職者は退職金や個人年金に頼る部分が大きいので、日本の退職者より老後の資産運用の巧拙が、生計に影響を与える度合いが大きい。自分の運用資金をどれだけ長持ちさせるかということと、いかにインフレ対応力を持つかということが運用のポイントだ。
記事はまず「下げ相場の時はリタイアの時期を遅らせ、できるだけ稼ぎで飯を食う時間を長くしなさい」という。大部分のアメリカ人の夢は退職して、気候の良いところでゴルフ三昧でもして暮らすことだ。記事はその時期を少し後ずらししなさいという。何故なら資産運用において「下げ相場の時に資産を取り崩すのは得策ではなく、下げ相場の時は資産を蓄積する方が良い」からだ。リタイア時期を延ばすことができないなら「下げ相場の時期は節約して、退職金に手をつけるのをできるだけ遅らせなさい」とNTは続ける。
当たり前すぎる話だけれど、これは参考にして良い話だ。もし退職時に相場が高騰していたら、株を売り払って、債券ファンドでも買って老後を安泰に暮らす。しかし株式相場が悪い時はできるだけ自分の株式ファンドに手をつけないで、パートタイムでも良いから収入を持ちなさいというのが、NTのアドヴァイスだ。
「インフレヘッジのためには債券だけでなく、株式ファンドにも投資するべきだ」とNTはいう。
だが余り日本のマスコミなどが言わないけれど大切と思ったことは「最低でも年一回はポートフォリオをリバランスしなさい」というアドヴァイスだ。リバランスするとは当初決めた資産配分に戻すこと。仮に株式60%、債券30%、預金10%という資産配分を決めたとする。あるいは株式をさらに細分化して、国内大型株へ15%、欧米株式インデックスに10%、新興国株式に5%と決めたとする。適切な資産配分については、過去のリターンやリターンのばらつきの程度、異なる資産の相関関係、リスク許容度などから計算される(証券会社等のアドヴァイスを受けても良いし、簡単なソフトもある)。
株式(債券もそうだが)や投資信託は、値段が変化することで、当初予定した資産配分から変化していく。株価が上昇して他の資産クラスの価格が変わらない場合は、株式の組入比率が上昇する。そこで元の比率に戻すべく株式の一部を売却して、比率が下がった資産を増やすことをリバランスという。リバランスは「割高になった資産を売り、割安の資産を買う」効果がある。このルールを守っていると「天井買わず、底売らず」という相場の格言に従うことになる。
リバランスは感覚的には合わない面もあるが、ファイナンス面ではメリットのあるやり方なのだ。
一緒に飲んだ投信会社の役員は「買った資産が2割位上がると取りあえず、売った方が良いと思いますよ」と言っていた。これもある程度リバランスの考えに通じるものがありそうだ。