金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

中国の廉価ビジネスは終りを告げる

2011年06月15日 | 社会・経済

今世界が注目していることに一つが中国のインフレだ。5月の物価上昇率は5.5%で4月の5.3%より高かった。人民銀行は預金準備率を0.5%引き上げ、21.5%にしたが、インフレは少なくとも数ヶ月続くというのが大方の見方だ。

だが景気循環的な物価の動きを超えて、構造的な変化が起きていることを示唆する話もある。

エコノミスト誌はThe end of cheap goods? 廉価商品の終り?という記事で、中国が世界の工場として安いローテク商品を提供する時代は終りに近づいたと述べている。

記事は衣料品や日用雑貨を輸出している香港の利豊Li& FungのRockowitzCEOの話から始まる。利豊は日本で一般的はそれ程有名ではないが、中国から米国への輸出の4%を扱うと推定される大手商社で、安価で信頼できる労働力を中国のみならず東アジア諸国に求めている。

利豊のCEOはアジアのローコスト生産の時代は終りに近いと述べる。彼はアジアの工業は幾つかの段階を経験してきたが、各段階は約30年で終わると主張する。

中国が毛沢東時代に孤立していた時、香港や台湾、韓国の企業がモノ作りと輸出に励んだ。毛沢東の死後1970年代の終わり頃、モノ作りの経験を積んだアジアの企業が、中国南部に焦点をあてて、極めて低コストでモノ作りをはじめ、世界に輸出した。

それからの30年間、中国は安い労働力を輸出することで世界のインフレ抑制に貢献してきた。だが今中国の賃金は急速に上昇している。

もし利豊のCEOの「30年説」が正しいとすると、中国の工業は新しいフェーズに入りつつあるということになる。

中国沿岸部の賃金が上昇しても、メーカーは安い労働力を求めて、中国内陸部やベトナム、バングラディシュ、インドなどに生産拠点を求めることは可能である。だが利豊のCEOは、それらの地域はかって中国が世界のインフレを抑制したような役割を担うことはできないと判断している。次の中国はないのである。

何故なら中国沿岸部は広大な土地、豊富な労働力に加えて、香港という物流上効率性の高い港湾を持っていたからだ。

これから物価は毎年5%づづ上昇を続け終わりは見えないと利豊のCEOは予想している。

そんな中中国企業はより付加価値の高いコンピュータ分野にシフトを強めている。今年台北で開かれたコンピューテックフェアで、中国企業は昨年の2.5倍の500ブースに出品した。

エコノミスト誌はBananaU(バナナU)という会社が、グーグルのアンドロイドをOSとして搭載したタブレット型コンピュータを発表していることを揶揄して「BananaUの品質はAppleの"A"というよりはBananaの"B"だろう」といっている。

このバナナという会社を作った中国人がバナナの隠語を知っていたとは思われないが、バナナには「白人のまねをする東洋人」という意味がある。エコノミスト誌がこれを踏まえてバナナ社をからかったのかどうかは知らないが。

それはともかく中国のコンピュータメーカーのブースは混みあっていたそうだ。

また今熱気を帯びているのが省エネ商品だ。かって低コストの労働力とエネルギー効率の悪い工場で、世界に廉価商品を輸出していた中国だが、賃金とコモディティ価格の上昇は彼等のビジネスモデルを変えつつある。

☆   ☆   ☆

我々はこの潮流にいかに対処するべきだろうか?

まずビジネス面では付加価値の高い分野で、中国企業との競争が激化することを想定するべきだ。また知的財産権などの保護を一層強化する必要がある。TPP参加はこの点からはプラス評価ができる。

中国の労働コストが上昇し、総合的に代替する地域がないということは「産業の空洞化」に歯止めがかかる可能性を示唆する。

また個人としては「世界的なインフレ」ということをそろそろ視野に入れたポートフォリオを考える時期が近づいているかもしれない。

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東電問題、原点に帰って考えるべきか?

2011年06月15日 | ニュース

政府は昨日(6月14日)「原子力損害賠償支援機構法案」を閣議決定し、国会に提出した。審議のゆくえは不透明だ。だが時間はあまりない。

FTはTepco faces frantic struggle for survive「東電は生き延びるために必死にあがいている」という記事で、幾つかの問題点を指摘している。

記事は国際協力銀行の前田 匡史氏の見解を紹介している。それによると東電の補償金額だけで4-5兆円に達する。一方東電の3月現在の純債務は2兆2千億円だ。東電は東日本大震災直後に銀行団から2兆円借りて、手持ち現金にしているが、発行済みの社債(総額4兆9,740億円)の期日はドンドン到来する。今年の償還額は5,489億円で、来年の償還額は7,479億円だ。だが東電にこれらの社債を償還する資金余力はなく、社債市場か銀行借り入れに依存せざるを得ない。

ところが東電の5年のクレジット・デフォルト・スワップ・レートは先週11%に達している。平たくいうと東電は11%以上の金利を支払わないと市場から資金を調達することができない(その金利を支払ったからといって必要な資金を調達できるという保証はまったくないが)。

銀行に債権放棄を促す発言を繰り返してきた枝野官房長官はこのところトーンダウンしている。つまりもし銀行が東電の債権を放棄すると東電は非正常先(破綻懸念先または実質破綻先)として査定され、銀行からの追加融資を受けることができなくなるからだ。また発行済みの社債がデフォルトになると、社債の償還が被害者に対する損害賠償より優先するため、賠償金が支払われなくなるリスクがある。

政府は東電の資産売却に関するデューディリジェンスを行なっている。東電の総資産14兆7,900億円の内、2兆1,300億円は電力事業に関わらないものだ。たとえばKDDIの株式2千億円や、東電が46%を保有する関電工の株320億円などである。

また一部の政治家は発電・配電の分離を主張し始めている。もし東電が配電部門を売却すると2兆円の現金を得られるという見積がある。

つまり手持ち現金2兆円と非電力部門の資産売却2兆円と配電分離の2兆円を合計すると6兆円の資金を捻出することは理論的には可能だが、これが福島原発の廃炉や長期的に安定した電力供給の上から妥当な策かどうかは甚だ疑問である。

FTはシティグループの銀行アナリスト野崎氏の「これは(政府の東電救済策)は感情的でヒステリックな議論で、論理的な解決ではない」という言葉を紹介して記事を結んでいる。

☆  ☆  ☆

政府の賠償法案は「原発事故の賠償責任は東電が負う」という立場の上で組み立てられているので、非常に微妙で複雑かつ薄氷を踏むようなものとなっている。

一度原点に帰って「東電の賠償責任に上限額を定め、それを超える賠償は政府が責任を負う」というところからスタートして、株主・社債権者・銀行・ユーザに粛々と応分の負担を求めるという法的解決を考えるべきではないか・・・と私は考え始めている。法的解決の得失を含めて、少なくとももう少し論理的な整理が必要ではないだろうか?

コメント (1)
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