今世界が注目していることに一つが中国のインフレだ。5月の物価上昇率は5.5%で4月の5.3%より高かった。人民銀行は預金準備率を0.5%引き上げ、21.5%にしたが、インフレは少なくとも数ヶ月続くというのが大方の見方だ。
だが景気循環的な物価の動きを超えて、構造的な変化が起きていることを示唆する話もある。
エコノミスト誌はThe end of cheap goods? 廉価商品の終り?という記事で、中国が世界の工場として安いローテク商品を提供する時代は終りに近づいたと述べている。
記事は衣料品や日用雑貨を輸出している香港の利豊Li& FungのRockowitzCEOの話から始まる。利豊は日本で一般的はそれ程有名ではないが、中国から米国への輸出の4%を扱うと推定される大手商社で、安価で信頼できる労働力を中国のみならず東アジア諸国に求めている。
利豊のCEOはアジアのローコスト生産の時代は終りに近いと述べる。彼はアジアの工業は幾つかの段階を経験してきたが、各段階は約30年で終わると主張する。
中国が毛沢東時代に孤立していた時、香港や台湾、韓国の企業がモノ作りと輸出に励んだ。毛沢東の死後1970年代の終わり頃、モノ作りの経験を積んだアジアの企業が、中国南部に焦点をあてて、極めて低コストでモノ作りをはじめ、世界に輸出した。
それからの30年間、中国は安い労働力を輸出することで世界のインフレ抑制に貢献してきた。だが今中国の賃金は急速に上昇している。
もし利豊のCEOの「30年説」が正しいとすると、中国の工業は新しいフェーズに入りつつあるということになる。
中国沿岸部の賃金が上昇しても、メーカーは安い労働力を求めて、中国内陸部やベトナム、バングラディシュ、インドなどに生産拠点を求めることは可能である。だが利豊のCEOは、それらの地域はかって中国が世界のインフレを抑制したような役割を担うことはできないと判断している。次の中国はないのである。
何故なら中国沿岸部は広大な土地、豊富な労働力に加えて、香港という物流上効率性の高い港湾を持っていたからだ。
これから物価は毎年5%づづ上昇を続け終わりは見えないと利豊のCEOは予想している。
そんな中中国企業はより付加価値の高いコンピュータ分野にシフトを強めている。今年台北で開かれたコンピューテックフェアで、中国企業は昨年の2.5倍の500ブースに出品した。
エコノミスト誌はBananaU(バナナU)という会社が、グーグルのアンドロイドをOSとして搭載したタブレット型コンピュータを発表していることを揶揄して「BananaUの品質はAppleの"A"というよりはBananaの"B"だろう」といっている。
このバナナという会社を作った中国人がバナナの隠語を知っていたとは思われないが、バナナには「白人のまねをする東洋人」という意味がある。エコノミスト誌がこれを踏まえてバナナ社をからかったのかどうかは知らないが。
それはともかく中国のコンピュータメーカーのブースは混みあっていたそうだ。
また今熱気を帯びているのが省エネ商品だ。かって低コストの労働力とエネルギー効率の悪い工場で、世界に廉価商品を輸出していた中国だが、賃金とコモディティ価格の上昇は彼等のビジネスモデルを変えつつある。
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我々はこの潮流にいかに対処するべきだろうか?
まずビジネス面では付加価値の高い分野で、中国企業との競争が激化することを想定するべきだ。また知的財産権などの保護を一層強化する必要がある。TPP参加はこの点からはプラス評価ができる。
中国の労働コストが上昇し、総合的に代替する地域がないということは「産業の空洞化」に歯止めがかかる可能性を示唆する。
また個人としては「世界的なインフレ」ということをそろそろ視野に入れたポートフォリオを考える時期が近づいているかもしれない。