金融市場は今日・明日と予定されている米国連邦公開市場委員会の行方を見守り、静かに推移している。より正確にいうと、市場の一部には量的緩和第三弾(QE3)を求める声もあったが、連銀がQE3を行なわないことはほぼ確実視されているので、市場は委員会終了後のバーナンキ議長のコメントを見守っているというべきかもしれない。
エコノミスト誌は先週Running out of roadというタイトルで、米国は現時点では金融・財政政策双方で打つ手はほとんど限られていると論説を発表していた。
それによると2年前の09年6月に不況が終わった後、GDPはほぼ長期トレンドに合致する年2.8%のペースで成長している。しかし通常は大不況の後、もっと急速にGDPは拡大するが、今回は反発が小さいので、潜在的成長率とのギャップは景気回復後も5%のまま続いている。また労働人口に占める就業者の比率は不況期のボトムより低い水準だ。
昨年12月までオバマ政権の経済顧問を務めたラリー・サマーズ氏は「アメリカは1990年代の日本の失われた10年の半ばまで来ている」と警告を発した。
アメリカはリーマンショックという自国発の危機に対し、オバマ大統領就任以降、1.2兆ドルの財政発動、二回の量的緩和策、2.3兆ドルの国債および住宅ローン担保債券購入プログラムを発動した。しかし最近の米国の指導者達は、かって日本を非難した惰性・無気力さの兆候を示している。
特に共和党が更なる景気刺激策に意欲を示さない理由は、現在の規模の財政介入は非効率でかつ危険だという信念があるからだ。共和党の下院院内総務ボーナー議員は「我々の多くの問題は、経済はコントロールできるまたは微細管理できるという誤った信念に起因すると考えられる」と述べている。
スタンフォード大学のジョン・テーラー教授(共和党の影の連銀議長という声あり)は「ブッシュ前大統領やオバマ大統領の景気刺激策や連銀の量的緩和策は、麻痺的な不確実性を撒き散らす」と批判し、大幅な政府支出の削減が、この影響を反転させ、民間支出と成長を創出する」と述べている。
財政支出のメリットについてはオバマ政権内部でも激しく議論されてきた。オバマ政権の経済諮問委員会の委員長だったクリスティーナ・ローマー氏は「雇用と所得を増やす短期間の財政刺激策は、家計に対する債務削減圧力を弱める」と主張していた。しかし昨年ローマー女史とサマーズ氏が政権を去って以来、反対派が勢力を得た。
しかし財政支出削減を行なわないと国債発行上限額の引き上げを認めないという共和党との交渉において、政府は向こう10年から12年の間で、1兆ドルから4兆ドルの赤字削減で交渉を続けている。
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一方連銀幹部は現在の景気の弱さは、東日本大震災の影響によるサプライチェーンの破綻、高い原油価格の影響によるものと判断しているが、これらの影響が去りつつあるので、今年後半には経済成長は3%に反発すると見ているので、これ以上の金融緩和策は現時点では必要がないと判断している。
ここでエコノミスト誌は「財政政策も金融政策も限界に近いので、民主党・共和党とも安くと成長を促進する方法を探し始めている。そしてそれは規制の緩和だということで両党合意している」と述べている。
緩和の対象となる規制とは、昨年定められたドッド・フランク法(金融規制改革法)だ。新しい金融規制改革法の元では、例えば大きくてリスクの高い貸出を行なう銀行はバーゼル3で決められた中核的自己資本比率7%の倍の14%の自己資本お求められる可能性があり、信用収縮が懸念されるからだ。
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ところで今日(6月21日)の日経新聞朝刊は「国際会計基準(IFRS)の強制適用に対して国内で慎重論が高まっている」と報じていた。米国では5月にIFRSへの統一を表明していた証券取引委員会が判断の先送りを行なっている。
今は規制の強化や新しいルールの導入で企業の負担を増やしたり、資金の流れを悪化させることは避けたいというのが、当局や関係者の本音だろう。日本も先送りをするべきだろう。
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日本にとってむしろ喫緊の課題は財政の健全化だ。米国で財政政策を巡ってこれだけ多くの議論が繰り返されている理由は、このままでは2016年までに財政赤字はGDPの6%に達し(IMF推計)、持続可能な範囲を超えるからだ。
IMFは日本には2017年までに消費税を15%まで段階的に引き上げることを提言している。
日本も米国も直ぐにギリシア的債務危機に陥る可能性はほとんどない。しかし、今の財政赤字は単に不況によるものではなく、構造変化と政治的無気力の産物だ。だから景気が多少改善しても財政が大きく改善することはない。
特に高齢化が進む日本の場合、待ったなしだろう。「規制緩和と消費税の引き上げ」が、である。