金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

Turn the tables (イディオム・シリーズ)

2008年06月24日 | 英語

ファイナンシャルタイムズ(FT)に、大和SMBCがロンドンとアジアでデリバティブのビジネスを拡大するという記事が出ていた。その時のタイトルがDaiwa turns the tables with derivatives foreyという文章だ。Turn the tablesは「主客を転倒させる」「形成を一変させる」という意味で、主に不利な立場にいた者が、有利な立場に立つ場合に使われる。Tablesはテーブルの上で遊ぶゲーム、バックギャモンなどを指す。バックギャモンではゲーム盤の向きを反対にすることがあり、ここからTurn the tablesという言葉が来ている。この言葉が最初に使われたのは17世紀なので、バックギャモンといっても現在のバックギャモンではなく、双六(すごろく)のようなものだった。

引用した文章は「大和(SMBC)はデリバティブ市場に侵略することで、形勢逆転をしている」ということだ。Forayには「侵略・急襲」という意味の他、「慣れないことに手を出す」という意味もある。FTは両方の意味で使っているのだろうか?

記事の背景を少し説明すると、サブプライム問題で競争相手である英米の銀行が弱っている機会を捉えて、大和SMBCが外銀から上級社員を雇い入れ、デリバティブ部門を強化しているということだ。これは10年前邦銀が不良債権問題で苦戦していた時に、英米の銀行にやられたことの裏返し。まさにTurn the tablesである。

しかし本当に形勢逆転・主客転倒という程、邦銀がプレゼンスを出せるかどうかはこれからの頑張り次第だろう。

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Canaries in the mine(イディオム・シリーズ)

2008年06月24日 | 英語

Canaries in the mineは日本語でいうと「炭鉱のカナリア」である。カナリアという鳥は一酸化炭素など有毒ガスに人間よりも敏感に反応するので、炭鉱夫が入坑する時に籠に入れたカナリアを持って入り、カナリアの反応を見て有毒ガスを検知した。因みにオウム真理教の上九一色村の拠点に警察が強制捜査を行った時も毒ガスを検知するため、カナリアを持って行ったという。このことからCanaries in the mineは「自らを犠牲にしながらリスクを検知するもの」という意味で使われる。

最近読んだファイナンシャルタイムズにShort-sellers are often the canaries in the mine. という文章が出ていた。「ショート・セラー(株式を空売りするもの)は、しばしば炭鉱のカナリアのようにリスク検知の先駆けをする」という意味だ。この文章の後には「(不正経理が元で破綻した)米国のエンロン社とタイコ社をショート・セラーは、問題が明らかになるはるか前から空売りしていた」という文章が続く。

一般的にいうとショート・セラーは、対象とする会社についてよく研究して、問題点を見つけ、その会社が将来悪くなり株価が下落すると見極めてから、株を借りてその株を市場で売却する。そして思惑通りその株が下落したところで、市場で株を買い戻し、株の貸手に株を返却する。利益は値下がり幅から株を借りるコストを引いたものだ。

ところでFTはどうして、彼等のことを炭鉱のカナリアと言ったのだろうか?それはショート・セラーは、社会や一般の投資家に空売りする会社に問題があるという警鐘を鳴らす。しかしショート・セラーが必ずしも十分な利益を上げることができるとは限らないからである。

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空売りは相場下落の犯人にあらず

2008年06月23日 | 金融

株であれ商品であれ相場が荒れてくると、犯人探しの声が高くなる。原油や穀物価格の上昇の裏には、これらの先物市場に大量に流入した投機資金があると言う政治家や評論家が増えている。また株式相場の下落の背後には、個別株を空売りする投機者がいると監督官庁は考える。

一方学者や投資銀行出身者は、先物市場や株の空売りを相場の乱高下の犯人とは考えず、むしろそれらの投機家は市場に流動性を供給しているから、プラスなのだという。流動性を供給するとは、投機家が売り買いの相手型となることで、売買が成立しやすくなることを指す。

さて英国では今週から金融サービス庁(FSA)が、株の空売りについて規制を強化するが、これに対してファイナンシャルタイムズ(FT)などが反論を展開している。FSAの規制とは、企業が割り当て増資を行う時、発行株式の0.25%以上を空売りするものは開示しなければならないというものだ。株式の大口保有については3%だから、空売りについては過酷なまでに厳しいと思われる。

FSAが空売りを抑制しようとしている理由は、サブプライムローン問題で資本を毀損した銀行・証券が資本増強を考えているからだ。金融機関は他の業種よりも、空売りによる株価下落に弱い。何故なら金融機関は信用が命だからだ。

日本の金融機関を例にとると、90年代の終わり頃は株価が低迷すると、預金者がその銀行から預金を引き上げる。銀行は預金を防衛しようと、預金に上乗せ金利をつけて預金者を魅了しようとする。しかし市場の信任が回復しないと預金プレミアムが又信用懸念を増幅するという悪循環に陥る。

最近の例では3月にベア・スターンズが救済合併される前に同社株の空売りポジションは積みあがっていた。現在では米国のリーマン・ブラザース、英国のHBOS(大手モーゲージ・レンダー)、豪州のバブコック・ブラウンにショートポジションが積みあがっている。

このような状態だから、FSAは空売り圧力を抑えて、金融機関が増資をやり易い環境を作ろうとしている。しかし規制で空売り圧力を抑えることが出来るかどうかは疑問だ。

エコノミスト誌は学術的な研究によると、空売りは妥当な株価の形成に貢献してきたという。実際空売りを行うもの~ショートセラーの方が、買い持ちだけの運用業者~ロングオンリー~よりも、対象企業について良く分析すると言われている。何故なら株式を空売りするリスクの方が買い持ちするリスクより高いからである。

空売りについてエコノミスト誌は「ニューヨーク証券取引所でショートポジションは4.3%で、ロンドンでも貸し株に回っているのは4.5%位だから、空売り戦略はマイナーな戦略である」という。確かに発行済み株式総額と較べると、空売り比率は少ないが、投資戦略としてマイナーかどうかというと疑問だ。というのはヘッジファンド戦略の中で買い持ち・売り持ちを両建てするロング・ショートのファンドは4割を占めるからだ。

ショート戦略というのは陰気な戦略ではある。何故ならショートした会社の業績が(少なくとも相対的には)悪くなることを期待しているからである。しかし純粋に資産運用の立場からいうと、過去10年の間ではロング・ショート・ファンドの方がロング・オンリーより少し良いリターンを上げている(ヘッジ・ファンド・リサーチ社による)ので、伝統的な資産運用業者も130/30(100のファンドがある場合、30%のショートポジションを取ることで130の運用を行う戦略)などの戦略でショートポジションを増やすと観測される。

歴史は規制により空売りを抑えることは長続きせず、かえって市場の悪化をもたらすことが多いことを告げているが、今回はどうなるのだろうか?

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水は農業の基本

2008年06月22日 | 社会・経済

書斎で梅雨の雨を見ていると、水など無尽蔵にあると思い勝ちだ。しかし歴史を頭に置きながら、郊外を歩くと昔の人が灌漑施設を如何に重視したかが分かる。例えば野火止用水だ。この用水は17世紀中頃、玉川上水から分水され開かれたものだが、これによって新座方面で大規模な新田開発が可能になった。江戸時代の人は結構インフラ整備に取り組んだのだ。

もう一つマイナーな例を引くと、私の故郷・京都の岩倉には権土池(ごんどいけ)というため池がある。この池は幕末に岩倉の地に隠棲していた岩倉具視が、村民に助けられたお礼に300円の金を与えため池を作らせたものだ。子供の頃岩倉には豊かな水田が広がっていたが、その裏には岩倉具視の300円があったのだ。

日本には水が多い。しかし農業特に大量の水を必要とする稲作には、灌漑用水というものが必要だったということを歴史に当たると実感できる。

ところで最近欧米の新聞を読んでいて、目立つことは日本の新聞より食料不足に関する記事がはるかに多いことだ。今日読んだニューヨークタイムズ(NT)はインドの食料不足問題を解説していた。それによるとインドは米国についで耕作可能面積が大きい国なので、正しい農業政策が取られていたら、世界に食料を輸出することができて、食料不足を緩和させることができるという。その正しい農業政策の一つが灌漑施設の充実なのだが、現実のインドでは地下水の汲み上げ過ぎによる地下水位の低下が大きな問題になっている。

CIAが公表しているデータから計算すると、インドの耕作可能面積は145万k㎡で、米国の165万k㎡よりは少ないが、中国の138万k㎡を上回る。

1960年代まで「飢饉」はインドの代名詞だったが、60年代のグリーン革命でインドの農業生産性は高まり、飢餓を追い払うことができた。グリーン革命とは小麦などの品種改良、肥料や殺虫剤の利用、灌漑用水の充実などで農業生産性を高めることである。1968年から1998年の30年の間でインドの穀物生産量は倍になっている。

しかし1980年代以降インド政府は灌漑用水の拡大など農業インフラ整備の投資を削減してきた。農家は地下水をくみ上げて給水してきたが、この結果地下水位が下がってしまい、慢性的な水不足に陥ってしまった。

インドの農業の問題は水不足だけではない。インドでも他の発展途上国と同様、所得が増えたことで、富裕層を中心に高価な果物や野菜の需要が高まり、それらを生産する農家が増えている。しかし交通インフラが悪い上、保冷トラックが欠如しているので、農家の収入への寄与は少ない。インドでは消費者が払う価格の5分の1以下しか農家の懐に入らない。世銀によるとこれはタイや米国に比べてはるかに低い割合だ。また政府が貧困層を支援するため、農産物の価格を低く据え置いているという問題もある。

農業収入が低いので、農業への投資意欲がわかず、都市近郊農民の中には農地を不動産開発業者に売却するものも出ている。

これらの問題に異常気象が加わり、2年前インドは数十年振りに小麦を輸出せざるを得なくなった。農業学者の中にはこのまま行くとインドでは2080年までに農業生産は3割方減ると予想する人がいる位だ。

インドの農業は複雑な問題を沢山抱えるが、灌漑用水を充実させるなど第2のグリーン革命に取り組む必要が出ているだろう。

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【書評】日本の刑罰は重いか軽いか

2008年06月21日 | 本と雑誌

私は良く「新書」を読む。正確に数えた訳ではないが、平均して月3,4冊は集英社新書などの新書を読んでいると思う。グローバル化・複雑化した社会や技術問題をざっと概観するに「新書」は便利だからだ。ざっくと分けると新書には「軽いなぁ。簡単な話を膨らましただけじゃないか」と思う本と著者の長年の研究成果で溢れていて「読み応えのある」本の二種類がある。「日本の刑罰は重いか軽いか」(王雲海著・集英社文庫)は典型的な後者だ。

著者は中国の大学で法学を学んだ後、来日し一橋大学で法学博士になり、ハーバード大学の客員研究員にもなっている。日中米3カ国の刑法・刑罰に詳しい著者は、3カ国を比較して社会と刑罰の関係を浮き彫りにしていく。

著者は「中国社会の原点は国家権力であり」「中国が『中国』として安定して存在できるかどうかは・・・・安定的で強力な国家権力があるかどうかにかかっている」という。そして中国では法律は「国家権力が民衆を統制するための規則にすぎない」という。

米国については「米国が『米国』として安定して存在できるかどうかは・・・安定的で強力な法律があるかどうかにかかっている」といい、「『米国』とは一つの法律的概念」だという。

筆者によると「日本社会の原点は文化」で「人々の行動や生活に最も大きな影響を及ぼすのは、権力でもなければ法律でもなく・・・民間で存在している文化的なものである」

本書のテーマは「日本の刑罰は重いのか軽いのか」であるが、筆者は日本の刑罰が重いか軽いかに結論は述べない。無論死刑になる犯罪者が年間数千人を超える(と推定される)中国や、インサイダー取引などの経済事件で、重い実刑判決が出る米国より日本の方が刑罰が軽いということは推定できる。しかし筆者が言いたいことは「刑罰が重いか軽いかは、どのような社会を理想とするかにかかってくる問題だ」という点だ。

この辺りは抽象的で少し難解な話なのだが、もっと実際的な話も出てくる。例えば「中国では概ね1千元以上の盗みでないと窃盗罪にならない」という話だ。1千元というと市場レートで換算すると1万5千円だが、生活実感からすると1ヶ月の給料程度らしい。

このような法の執行スタイルを筆者は「中国の法執行はキャンペーン式だ」という。平たく言うと小さなことはほって置いて、政治理念や目前の社会情勢・治安状況を根拠にある種の犯罪を重点的に取り締まること。

「小さな窃盗は刑事罰の対象にならん」と考える中国人が多いので、来日中国人の犯罪が多い(今来日韓国人を超えて中国人がトップになっている)のか?と私は推測した。(ただし著者はこのようなことには触れていない)

話が横にそれたが、来年導入される「裁判員制度」をきっかけに、日本の刑罰問題を考えるならば、非常によい手がかりを提供してくれる本である。

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